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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
「……おやすみなさい」
寝室の扉が閉まる直前にそう呟いた、ヴィヴィの言葉は、どうやら兄には届かなかったらしい。
静かに閉じられた扉の向こうからは、離れて行く兄の足音が微かに聞こえていた。
11月3日(火)。
就寝準備を終え、リビングのソファーに座りこんだヴィヴィに、朝比奈はいつもの様に尋ねてくる。
「お嬢様、今日はどのハーブになさいますか?」
「ん……。そうだね……」
そう答えながらも、ヴィヴィは頭の中では別の事を考えていた――そう、兄の匠海の事を。
(ストレッチにも、ヨガにも、反応しなかった……)
2日前から続けている寝室での会話。
ヴィヴィはあの手この手で兄を誘惑してみたが、結局匠海は自分に指一本触れる事はなかった。
ヴィヴィは困ったように眉根を寄せる。
事の始まりは、自分が兄の書斎で淫らな夢を見てしまったせい。
そしてそのせいで、匠海に対して少しずつ開き始めていたヴィヴィの中の扉が、完全に閉じられてしまった。
けれど、違ったのかもしれない。
あれは本当に自分の勝手な怯えが見せた夢であって、本当に兄は自分の事を、待ってくれるつもりなのかもしれない。
「……お嬢様……?」
そう遠慮がちに呼び掛けられた朝比奈の声に、ヴィヴィははっと我に返る。
心配そうにこちらを伺う執事に、ヴィヴィは話の途中であったことを思い出した。
「あ、あぁ……、えっと、ハーブ……。うん、ジャスミンにする」
「ジャスミンのみで、宜しいですか?」
「うん」
気持ちを落ち着けたくて、昔から飲み慣れたハーブを選んだヴィヴィだったが、いざ用意されたジャスミンをガラスのポットに入れてすぐに、自分の過ちに気付いた。
(あ……、ジャスミンって、催淫効果、あったんだった……)
何時ぞや、兄に「ジャスミンティー飲んで、お前もセックスする気満々じゃないか」的な事を言われた事件を思い出し、ヴィヴィは頭を抱えた。
「お嬢様? どうされました?」
主の意味の分からない行動に、朝比奈が本気で心配そうに声を掛けてくる。