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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章          

 一瞬、朝比奈に言ってハーブを取り換えて貰おうかとも思ったが、それも我が儘な気がして、ヴィヴィは金色の頭を抱えていた両腕を解き、ぽつりと呟いた。

「ん……、なんでもないの……(T_T)」

 全然、なんでもなく無い表情でそう発したヴィヴィは、とぽとぽとポットの湯を注ぎ、辺りに広がり始めたエキゾチックな芳香に、更に眉をハの字にした。

 でもやはり、ジャスミンティーは美味しくて。

 その香りと微かな甘い味に癒されていると、いつもの時間に匠海が訪ねてきた。

「……ジャスミン?」

 リビングに立ち込めるその香りをすぐに指摘してきた兄に、ヴィヴィは逆に踏ん反り返って「うん。いい香りでしょ?」と発してやった。

(だって、偶然なんだもんねっ 意図した事じゃないもんね。ふんだっ)

 ガキっぽく頭の中で言い訳したヴィヴィは、朝比奈に就寝の挨拶をすると、兄を伴って自分の寝室へと入った。

 ここ連日と同じようにベッドの上に登ったヴィヴィは、傍に腰を下ろした匠海の前で、両脚のマッサージを始めた。

 パウダーイエローのパーカーと、ホットパンツの縁に、小さなポンポンが付いているとても可愛いそれは、兄を誘惑するには向いていないかもしれない。

 すらりと伸びた細過ぎるふくらはぎを親指の腹で指圧していると、匠海が何かを思い出した様に声を掛けてきた。

「ヴィクトリア、あれ……、まだある?」

「……あれ……?」

 兄の意図する物が分からず、ヴィヴィは匠海を見つめながら微かに首を傾げる。

「俺の英国土産の、アロマキャンドル」

「え? あ、うん……。まだ使ってない……」

 ヴィヴィはそう言うとマッサージを中断し、ベッドサイドのランプが置いてある、サイドテーブルの引き出しを開ける。

 そこから取り出したのは、丸い缶タイプのキャンドルだった。

 クラシックローズの絵柄が全体的に散りばめられた可愛らしいそれに、兄がスーツを着込んだ腕を伸ばしてくる。

「貸してごらん。これ、ただのキャンドルじゃなくて、アロマオイルになるんだよ」

「え……?」

 スーツの胸元からジッポを取り出した匠海は、その中心に火を点けた。

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