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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
サイドテーブルの上に置かれたキャンドルが、周りに柔らかな光を振りまき始め、何故かその空間が先程とは全く異なるものに変化した。
ゆらゆらと立ち昇る小さな炎の揺らぎをぼうと見つめていると、しばらくして辺りに芳醇な薔薇の香りが立ち込め始める。
缶の中のキャンドルは、芯の周りから徐々に解け始め、白かった表面が透明に変化していた。
その透明な液体を付属の細い木べらですくった匠海は、自分の手の甲の上に落とす。
「肌に塗れるんだ。ほら」
掌の上でその透明な液体を塗り広げて見せた匠海に、ヴィヴィは興味津々に尋ねる。
「……熱く、ないの……?」
「大丈夫。手、出してごらん?」
言われるがまま右掌を差し出せば、そこにぽたぽたと暖かなオイルが降り注いだ。
「暖かい……。うわぁ、いい香り……」
ヴィヴィはオイルに細い鼻を近づけると、くんくんとその香りを嗅ぐ。
「クラシックローズの精油が入っているからね。元はソイワックスとシアバターで出来ているんだ。だから肌にもいいんだよ」
兄のその説明に、ヴィヴィはポンポンに縁取られた長袖のパーカーを捲り、腕にそれを塗り広げる。
べとべとしないサラリとしたオイルで腕を揉み、そしてそこを再度手で触れてみる。
「…………すべすべ、だ」
そう小さく驚きの声を上げたヴィヴィは、またそこに鼻を寄せ、にっこりと微笑んだ。
兄にせがんでオイルを貰い、もう片方の腕もマッサージしながら、ヴィヴィはふと気付いた。
「……そういえば……」
「ん?」
そう優しい相槌を打つ兄を、ヴィヴィは不思議そうに見つめる。
「お兄ちゃん、どうしてライターなんて持ってるの?」
(お兄ちゃん、タバコ吸う人だったっけ?)
今まで散々、深い口付けを交わしたが、兄からタバコの味や匂いがしたことは一度も無かった。
「ああ、これは、エチケットみたいなもの」
匠海はそう呟きながら、胸ポケットにしまっていたジッポを取り出す。
「エチケット……?」
「うん。俺が普段接している人物の中には、役員レベルの人間もいるからね。ホテルのラウンジやバーで、葉巻を嗜む人が多いんだよ」
兄のその説明に、ヴィヴィは小さく頷く。