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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章          

 何度か兄と一緒に入った事のある、そのバスルーム。

 と言っても、いつも抱き潰されてくたりと弛緩したヴィヴィは、匠海に抱きかかえられて連れて来られていたが。

 ヴィヴィは少し躊躇しながらもそのドアノブを捻り、自分の方へと引き寄せて開いた。

 その時――、

「……っ ……リアっ ぁ……っ」

 シャワーの降り注ぐ音に紛れて、微かに兄の声が聞こえた。

(………………?)

 ヴィヴィはそこで、何故か扉を開く手を止めてしまった。

 20cm程開かれた扉の先、ガラス張りのバスルームは湯気で白く曇り。

 そしてそこにぼんやりと浮かび上がるのは、壁に頭を預けているらしい、兄の裸体のシルエット。

 断続的に聞こえてくる、兄の悩ましげな声。

 シャワー音に掻き消される寸前の、微かな吐息。

 そして、明確に自分の名を呼んでいる、兄の嬌声。

「ああっ ヴィクト、リア……っ 愛して……るっ」

「……――っ!?」

 刹那、息を呑んだヴィヴィは、震える両手で何とか扉を元の位置に戻し。

 混乱する頭を抱え、もと来た道を戻った。

 そして、自分の寝室の扉を静かに閉めた後、心の中で呟いた。

(…………うそ……っ)

 今見聞きした光景が、ヴィヴィの頭の中でぐるぐると何度も再生されていた。

 その頬はゆでだこの様に赤く。

 灰色の瞳は一瞬潤んだかと思えば、ぼろりと熱い涙を滴らせた。

 震え続ける両手を持ち上げ口元でぎゅうと握り締めたヴィヴィは、頭の中で先程目にした光景を言葉に変換した。

(お兄、ちゃんが……、あの、お兄ちゃんが……っ 自慰、してた……?)

「……うそ……っ」

 そう擦れた声で呟いたヴィヴィの耳元で、兄の喘ぎが木霊する。



『ああっ ヴィクト、リア……っ 愛して……るっ』



 ヴィヴィはふらふらと足を運ぶと、ベッドの上にぼすんと頭から倒れこんだ。

 兄の声が耳から離れない。

 切なそうに自分を呼ぶ声。

 愛おしそうに自分に愛を囁く言葉。

 そして、快楽に耽る艶やかな声音。

「…………う、そぉ……っ」

 ヴィヴィは羽毛布団の中に、また同じ言葉を零す。

(お兄ちゃん……、ヴィヴィの事、思い出しながら、自分で、慰めてたの……?)

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