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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章          

「うそぉ~~……っ」

 今度は呟きなんかじゃなく、明確な言葉として、ヴィヴィの薄い唇から飛び出た。

 信じられない。

 “あの” 兄が。

 “あの” 匠海が、どうして――?

 兄は本当に女にモテるのだ。

 東大の馬術部で出会った兄の親友も、モテると言っていたし。

 以前、あまりに格好良い匠海のスーツ姿にやきもちを焼き「今日何人に声を掛けられた?」と問い詰めた自分に「3人、くらい?」と本人が漏らしたくらい。

 一緒に外出すれば、鬱陶しくさえ感じるほど、兄に纏わりついてくる女の視線。 

 なのに、どうして――?

「………………」

 しばらくベッドに突っ伏して呆けていたヴィヴィは、徐々に冷静な思考を取り戻す。

 不思議と嫌悪感は微塵も抱かなかった。

 胸が、心が、凄く熱くて。

 まだ頭は混乱したままで、落ち着かないけれど。

 ただ、悪い気はしない。

 いや。

 どちらかと言えば――嬉しい。

 この3日間、自分はずっと兄を誘惑していた。

 その効果は全くと言っていい程、感じられていなかったが、現に兄は自分の名を呼びながら自慰に耽っていた。

 きっと兄からしたら、きつく苦しい状況だったのだろうと思う。

 それも、自分で慰めなければならないほどに、躰に直結していたのだから。

 自分が誘惑する姿を見て、反応してくれた兄。

 けれど、絶対に自分には手を出さず。

 それどころか、その性的欲求を他の女で紛らわそうとはしなかった。

「信じて……、いい、の……?」

 羽毛布団の中、ぼそりとヴィヴィが呟く。

 1ヶ月前、葉山の別荘で喧嘩別れして以降。

 匠海は何度も自分に愛を囁き、優しく労り、根気強く待っていてくれた。

 最初はそれさえも苦痛で、兄の姿も声も受け付けなかった。

 けれど、今の自分は変わってきている。

 何故ならば、兄が自分に誠意を見せてくれているから。

 暖かく慈しんでくれる、切れ長の瞳で。

 何度も愛を囁いてくれる、綺麗な唇で。

 ヴィヴィの不安も明るく笑い飛ばしてくれる、大きな口で。

 そしてちっぽけなヴィヴィを丸ごと包んでくれるような、あの大きな存在感で。

「………………」

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