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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章          

(馬鹿なヴィヴィ。本当に何を浮かれていたんだろう……。お兄ちゃんが、自分の心を自分の躰を、大事にして尊重してくれている、なんて――。そんな、馬鹿な勘違いして……っ)

「う~ん。こればかりは証明のしようがないから、信じて貰うしかないんだけど」

 困った様にそう説明する匠海に、ヴィヴィはナイトウェアのスカートをくしゃりとその手の中に握り締めた。

「ヴィヴィ、凄く嫌だった……」

「え?」

「お兄ちゃんが、誰か抱いた後に、自分が抱かれるの……。ほんと、嫌だった……。いつも後で戻してたっ」

 きっとそれも、原因の一つだったのではないかと思う。

 慢性的に吐き癖がついてきていて、そして英国で兄の言葉にショックを受けた自分は、急性胃炎を発症してしまった。

「ヴィクトリア……、吐いていたのか……?」

 そう呟いた兄の声は、今までの優しく穏やかなものとは異なっていた。

 初めて知らされた事実に愕然とした表情を浮かべる匠海に、ヴィヴィは最後の言葉を呟く。

「…………、だから、信じられない……」

 そう――自分は兄を信じたいのに信じられない。

 そんな心の状態で、いくら兄に甘く愛を囁かれても信じられる筈がないのだ。

 何度「愛している」と言われても、どれだけの時間待ってくれても、根本の所が解決しないと、ヴィヴィの心は何時まで経っても、匠海に対して開かれることは決してない。

(どうして……、どうしてなの、お兄ちゃん……)

 兄はヴィヴィが聞きたい事、確かめたい事に、何1つ説明してはくれていない。

 小さく息を吐いたヴィヴィは、デスクの上の砂時計が既に10分経過したことを告げている事に気付いた。

 自分の私室に戻ろうと立ち上がったヴィヴィに、匠海がゆっくりと顔を上げる。

 そして匠海の形の良い唇から発せられたのは、意外な言葉だった。

「勃たないんだ」

「………………え?」

(……勃たない……? って……、え?)

 兄の言葉の意味が分からず、ぽかんとするヴィヴィの前で、匠海は更に言葉を紡ぐ。

「ヴィクトリア以外の女性に、勃たなくなった」

 真っ直ぐに自分を見上げてそう告白する匠海に、ヴィヴィはぐっと顔を顰めた。

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