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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
ヴィヴィは悔しくて、苦しくて、力任せに羽毛布団を握り締め、そのまま腕を振り下ろす。
しばらくはぼすぼすと軽い音が響いていた寝室だったが、やがてその音も途絶え。
その後に続いたのは、静かな啜り泣きの声だった。
今でも苦しい。
兄が他の女と抱き合っているのを少しでも想像するだけで、涙も嗚咽も止まらない。
肋骨に守られたその内側が収縮するように苦しくて、いっそそのまま潰れて死んでしまったほうが楽なのではと思うほどなのに。
「嘘、吐き……っ 嘘吐き――っ!!」
腕の中に引き寄せた羽毛の中に、ヴィヴィは声の限りに叫ぶ。
兄の目的が本当に解らなかった。
甘い声で愛を囁き。
何時までもヴィヴィの心が整うまで待つと誓い。
けれど物事の核心に意を決して触れようとしたヴィヴィに、こんなバレバレの酷い嘘を吐く。
(本当に、分からない……。大好きだったのに、愛していたのに……。こんなにもお兄ちゃんのことが解らないだなんて……。ヴィヴィ、本当にお兄ちゃんを愛していたのかな……)
物心付いた頃から、兄しか見て来なかった。
14歳で兄への恋心を自覚し。
15歳で兄の躰を無理やり奪い。
16歳で兄と躰の関係を持つようになった。
そして、17歳の自分は今――全てを見失っている。
全ての物事を根底から覆された気がした。
自分が今まで見てきたのは、一体誰だったのか。
自分が今まで愛してきたのは、本当の兄だったのか。
そして今、自分はどうする事が正解で、どうする事が自分の望みなのか。
もう何もかもが解らなくて予測不能で、ヴィヴィは先程までの怒りは何処へやら、もう途方に暮れるしかなかった。
11月5日(木)。
勉強とスケート以外の時間はぼ~と腑抜けていたヴィヴィは、学校でもリンクでも屋敷でも、周りの皆にだいぶ心配を掛けていたらしい。
食事をすればすぐに箸が止まり、摘まんだ食べ物がテーブルの上を転がり。
「化粧室いに行ってくる」とふらふらと席を立ち戻らないと思ったら、外を見てぼんやりしているし。
居なくなったと辺りを探せば、何故か日が陰った庭の一角にへたり込んで、これまたぼ~としている。