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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章
学校とリンクではクリスが、屋敷では朝比奈がそんなヴィヴィをフォローしてくれていたらしい。
「ヴィヴィ、大丈夫……?」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
2人のその言葉を、今日何度聞いたか分からなかった。
母があまりにも呆けている娘を見て、
「病院でも、連れてく?」
と冗談めかして言った時、ヴィヴィは心中で「それもいいかも」と思った。
(なんか、メンタルカウンセリングとか、心理療法とか受けたいかも……)
そんなこんなで何とか1日の予定を終えたヴィヴィは、また匠海の書斎で兄と2人でいた。
大人しく椅子に座り、目の前で黒い砂時計を反転させた後は、まるで腑抜けた様子のヴィヴィを、兄は静かに見守っていた。
しんと静寂が下りる書斎。
その近くには、もう朝比奈は控えていない。
兄を自分の寝室に招いた日以降、ヴィヴィは自分の執事に傍に居て欲しいと頼む事は無くなったから。
灰色の瞳が少しも揺らぐ事無く、目の前で落ち続ける黒い砂の流れを追う。
その上部の砂が残り1/3程になった頃、匠海は静かに口を開いた。
「ヴィクトリア……」
自分を呼ぶ声にふと顔を上げれば、匠海が自分を真っ直ぐに見つめていた。
そして差し出されたのは、1通の封書。
「これ、見て」
「……何……?」
「医師の診断書」
ヴィヴィが受け取った水色の封筒には、King Edward VII Hospital in central LONDON(キング・エドワードVII病院)と印字されていた。
ロンドンの有名病院のその名を認めながら開封すれば、中には1枚の紙が入っていた。
「……これ……」
折り畳まれた用紙を広げてさっと目を通したヴィヴィは、掠れた声でそう呟く。
「ああ、EDなんだ」
そう静かに答えた兄の声も、微かに掠れていた。
ヴィヴィは最初からもう一度、今度はしっかりとその診断書に目を通す。
『 ED――Erectile Dysfunction(勃起不全)。
但し、心因性(深層心因)による動脈拡張の阻害によるものだと思われる。 』
兄のフルネームと、英国での住所、国籍、生年月日。
他には初診日、診断書発効日、担当医のサイン。
ただそれだけの、簡素なものだった。