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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章          

「お友達?」

 診断書に視線を落としたまま、ぼそりとそう呟いたヴィヴィに、聞こえなかったのか匠海は「え?」と聞き返してくる。

 顔を上げたヴィヴィは、今度は真っ直ぐに兄の灰色の瞳を見据え、口を開く。

「お兄ちゃんなら、お医者さんのお友達くらい、いっぱいいるでしょう? こんなの、頼めばすぐに書いてくれるんじゃないの?」

 診断書を裏返して兄の方に書面を向けたヴィヴィに、匠海の顔色がさっと変わった。

「ヴィクトリア……。お前……、そんなに俺の事が信じられないのか?」

 明らかにショックを受けた様子の兄に、ヴィヴィは視線を逸らさずにさらに言い募る。

「怒ったの? 殴れば? 力で捻じ伏せて、もうどうにでもすればいいじゃない」

 その捨て鉢にも聞こえる言葉は、ヴィヴィの今の本心だった。

(そうして……。もう、ヴィヴィをお兄ちゃんから、解放して……)

 けれど兄の返事は、ヴィヴィの望んだものでは無かった。

「それはしない」

「……ふうん……」

 固い声でそう断言した兄に、ヴィヴィはまるで失望した様に視線を落とした。

 かさりと小さな音がしてふと視線をそちらにやると、水色の封筒を摘まんだ匠海の指先が視界に入る。

「これは本当にきちんとした診断書だよ。なんなら、この医師に電話してくれてもいい」

「………………」

 兄が差し出した封筒には、病院名と住所、そして電話番号が記載されていた。

 それをじいと見つめているヴィヴィの目の前で、匠海は診断書を折り畳むと封筒に仕舞い、妹の膝の上に乗せた。

「10分経ったね。おやすみ、ヴィクトリア」

 そう就寝の挨拶を寄越した匠海に、ヴィヴィは診断書を手にするとゆっくりと椅子から立ち上がった。

 ちらりと椅子に腰掛けたままの兄を見下ろしたが、いつもなら愛おしそうに自分を見つめてくるその暖かな瞳は無く。

 ヴィヴィはまるでその事実から逃げ出す様に、足早に兄の書斎を後にしたのだった。





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