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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章          

 その日のヴィヴィは、前日に輪をかけて酷かった。

 相変わらずスケートと勉強には一心不乱に打ち込むものの、それ以外の時間は周りが話し掛けてもほとんど反応せず、学校ではずっと机に突っ伏し、リンクではぐったりとベンチにへたり込んでいた。

『ED――Erectile Dysfunction(勃起不全)。

 但し、心因性(深層心因)による動脈拡張の阻害によるものだと思われる。』

 昨夜、何度も見返した診断書の文字が、頭の中から離れなかった。

 深層心因――抑圧された怒り、憎しみ、愛憎葛藤、妬み、不安、欲求不満、幼少時における心的外傷体験、母子分離不全、去勢恐怖、エディプス・コンプレックス(潜在する無意識的な近親相姦欲求)、ホモ・セクシュアルなどが原因・誘因となって引き起こされる心因性のED。

 その誘因を知った時、ヴィヴィはやっと自分の犯した過ちに気付いた。

『抑圧された怒り、憎しみ、愛憎葛藤』

 それらを、自分は兄に対して与えた。

 あの日――15歳の4月。

 春雨が降り続く夜、血の繋がった妹である自分は匠海を拘束し、痛みと引き換えに強制的に快楽を味あわせた。

 それが誘因になり兄の中では、今まで愛情を傾けて来た自分に対する怒りや憎しみが芽生え、心を病ませ、そして機能不全にまで至らせてしまった。

(もう……、EDが嘘かどうかなんて、関係ない……)

 自分の軽率な行いで、兄が心身共に傷付き、今迄独りで苦しんできたと主張しているのだ。

 ならばそれが真実。

 被害者の兄が黒だというのなら、それが例え白であっても、加害者の自分にとっては黒なのだ。







「……昨日は、ごめんなさい……」

 書斎に入って第一声。

 ヴィヴィは兄に対してそう謝罪を口にした。

「え?」

 少し驚いた声を上げた兄に、ヴィヴィはデスクの上に預かっていた封筒を置く。

「診断書……。疑って、お兄ちゃんに酷い事、言った」

「ヴィクトリア……」

「本当に、ごめんなさい……っ」

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