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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第99章          

「いいや、俺はこれでいいんだよ」

「……え……?」

 兄の言葉の意味が分からず、ヴィヴィはその灰色の瞳を戸惑ったように見つめ返した。

「だって、俺の躰は、愛しているヴィクトリアには、ちゃんと反応してくれる」

「……――っ」

 兄のまさかの言葉に、ヴィヴィは息を呑んだ。

「それは、お前が一番知っているだろう?」

 そう言って少し悪そうに嗤った兄に、ヴィヴィは一瞬の躊躇ののち、こくりと頷く。

 ヴィヴィの記憶の中の匠海は、いつも激しくて、精悍で、タフだった。

 だから自分は一度だって、兄がそんな状況で辛い思いをしていたなんて、想像もしなかったのだ。

「……どうして、ヴィヴィには、反応、するの……?」

 ヴィヴィのその問いに、兄は困ったように首を捻る。

「俺も、初めは不思議だったよ」

「初めって……、いつから、そうなの……?」

 恐るおそるそう疑問を口にしたヴィヴィに、兄は真っ直ぐに妹の瞳を見つめて答えた。

「ヴィクトリアに襲われて、ひと月位した時から」

「……――っ」

「実の妹のお前と、躰を繋げてしまって……。翌朝、すぐに渡英しただろう? 俺もおかしくなっていて、英国で女性をとっかえひっかえ、夜を共にしていたんだけど。そのうち、機能しなくなって……」

「………………」

 兄のその告白に、ヴィヴィは文字通り言葉を失った。

 どう考えても自分が兄を強姦したせいで、EDを発症してしまったのだ。

「ずっとお前しか、考えられなかった……。何をしていても、ヴィクトリアの事が浮かんで。それでお前によく似た外見の子を探してみたけど、やはり少しも反応しなかった」

 とつとつと説明してくれる兄の言葉に、ヴィヴィの中にある記憶が蘇った。



『何故、俺がお前を殺さなかったか、

 分かるか、ヴィクトリア?』

『俺がお前に復讐するため――、

 ただそれだけの為に、お前は生かされているんだ』



 ヴィヴィが兄を襲った2ヶ月後。

 一時帰国した匠海が、松濤のリンクで放ったその叱責の言葉。

「……『復讐』って……」

「ああ、そういう意味で言ったんだ。俺の男としての機能、返せってな……」

「………………」

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