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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 11月7日(土)。

 いつも通り5時起きでリンクへ向かったヴィヴィは、クリスやリンクメイトとトレーニングとレッスンに励んでいた。

 だが、表面ではそう振る舞ってはいるものの、頭の中は兄との事一色で。

 ヴィヴィは頭を切り換えよう、一旦はその事を忘れて、目の前の今すべき事に勤しもうと努力するのだが、そう上手く行く筈も無く。

「ヴィ~ヴィ~……」

 呆れた表情でジュリアンに呼ばれ、リンクサイドの母の元へ滑って行けば、言い渡されたのは予想通りの言葉。

「集中出来ないなら、上がりなさい。理由は分かるわね?」

 ヴィヴィはピンクと黒のウェアに身を包んだ身体の前で、両手を握り締めて頷く。

「……はい。自分も周りも危険だから……です」

「そういう事」

「……お先に、失礼します」

 素直に従ったヴィヴィに、ジュリアンは片手を上げると、その直後には娘の事など忘れた様に、他の生徒の方へと意識を向けてしまった。

 氷から降りたヴィヴィは念入りにストレッチをすると、3時間前に出たばかりの屋敷へと戻った。

 まだ9時過ぎ。

 私室へと戻ったヴィヴィはスケート靴を磨いて片し、シャワーを浴びると、秋物らしい深みのあるベージュに黒のボタンとベルトが配されたワンピースに着替えた。

 私室のリビングで朝比奈が用意してくれた紅茶に口付けながらも、気になるのは隣の部屋に兄がいるかどうかという事で。

「……朝比奈……」

「はい、何でしょう?」

 黒いスーツを纏った朝比奈が、白磁のティーカップに紅茶を継ぎ足しながら尋ねてくる。

「……お兄ちゃん、いないの……?」

 ちらりと視線で隣の部屋を示せば、朝比奈は首を横に振った。

「朝早くからお出掛けです。お帰りの時間は分かりませんが、五十嵐さんに伺って参りましょうか?」

「……ん……、お願い」

 そう頼んだヴィヴィに朝比奈は目礼すると、ヴィヴィのリビングを出て行った。

 兄は所用を片した後ジムに寄るらしく、結局戻るのは早くても2時間後だと聞かされ、ヴィヴィは1階の防音室へと足を運んだ。

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