この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 漆黒のグランドピアノに近づき、大屋根を持ち上げて突上棒で固定すると、鍵盤を覆う蓋とフェルトを除く。

 椅子に浅く腰かけたヴィヴィは、胸の前で一度指を組むと軽く解し、磨き上げあられた鍵盤の上へと下した。

 5分程掛けて指を慣らし、弾き始めたのはピアノ講師から出された課題曲。

 フレデリック・ショパンの『バラード 第1番 ト短調』。

 夏頃練習していた『木枯らし』も含め、どうやらヴィヴィのピアノ講師は、ショパンが好きらしい。

 ショパンのピアノ曲のスタイルには、抒情的と物語的、という分類がある。

 後者の典型がこの『バラード』。

 『バラード』とは、 “物語” を意味するフランス語が起源らしく、その名の通り1曲の中で起承転結を感じることが出来る。

 作品の劇的な性格を象徴しているかの様な、導入部。

 その後に続くト短調の第一主題は、陰鬱で捉えどころがない。

 一見シンプルに見えて不可思議な色を持つ旋律は、ためらいがちに途切れ、聴く者に直接的に訴えてくるかと思えば、やはり戸惑い、内に籠もる。

 最初は調子よく弾いていたヴィヴィだったが、やがて鍵盤の上を走る手を止めた。

 ピアノの余韻も掻き消えた静かなそこに零れるのは、微かな溜め息。

 それはそうだろう。

 スケートの練習が出来ない程心が乱れているのに、同じく集中力を必要とするピアノの演奏が出来る筈もない。

「………………」

 鍵盤に添えていた指先が冷たく感じ、ヴィヴィは手を引いてワンピースの脚の上に揃える。

 頭と心を占めているのは、昨夜の兄の言葉だった。

 自分のせいで、男性としての機能に障害を持ってしまった兄。

 けれど今、兄は自分を恨むどころか、とても幸せそうに囁くのだ。



『確かに色々な事があったけれど、

 それでも俺はお前を愛しているよ。

 ちゃんと1人の女性としてね』



 兄の優しさ――昨夜の自分はそれに縋り付き、この苦しい状況から逃げ出しそうになった。

 まだ解らない事、知らされていない事は、山積みなのに。

 すぐに楽になる方法をまた取ろうとしてしまった自分が、不甲斐無さ過ぎて。

 ヴィヴィは華奢な肩を落とすと、握り締めた手を見下ろす。

/2774ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ