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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
よって若者は第1番を好む傾向が、玄人は第4番を選ぶ傾向にある。
要するに、第1番は 華麗に弾いて自己満足を味わえる = 単純なヴィヴィが好みそう ……という図式が成り立つ。
「うん……。お兄ちゃんは、第4番が好き……?」
「そうだね。 俺を探していたんだって? ヴィクトリア」
いきなり本題に入った匠海に、ヴィヴィは一瞬 意表を付かれて固まったが、すぐに頷く。
「……時間、あるかな?」
「ああ。午後は特に予定を入れていないよ」
ヴィヴィは手早くグランドピアノを片付けると、兄と一緒に3階へと戻った。
「話がしたい」――そう言ったヴィヴィに、匠海が案内したのは兄の書斎。
五十嵐に紅茶を用意して貰い、扉を閉めたそこはしんと静まりかえっていた。
2人の間にあるのは、兄が裏返した黒い砂時計。
いつも通り1m離れて置かれた椅子に腰をかけたヴィヴィは、兄が紅茶を飲みカップをソーサーに戻したのを確認してから、静かに口を開いた。
「ごめんなさい……」
「……どうした?」
いきなりぺこりと頭を下げた妹に、少し驚いた声を上げた匠海に、ヴィヴィはそのままの体勢で続ける。
「元はと言えば、全て、ヴィヴィが悪かったの。お兄ちゃんのEDも、その後のことも……」
「そうだね……。けれど、俺は全てを考えて色んな事に腹も立てたけど、最終的には気づいたんだ。ヴィクトリアを、女性として愛している自分に」
そう答えた匠海の声はとても落ち着いていて、ヴィヴィはゆっくりと頭を上げると兄と視線を合わせた。
「……本当、なの……?」
「ああ、愛している」
静かにそう答えてくれる兄に、ヴィヴィはこくりと息を飲み下すと、意を決して薄い唇を開いた。
「……じゃあ、どうして……『鞭』を与えたの……?」
「『鞭』……?」
そう不思議そうに聞き返してくる兄に、ヴィヴィは言い直す。
「どう考えても、愛している人に言う言葉や、行動ではなかったと、思うけれど……」