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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 昨年の年末に帰国した兄は、妹をスパへと連れ出したその日から、日替わりで『飴』と『鞭』をヴィヴィに与える様になった。

 言葉の暴力、拒否してもセックスを強要され、揚句 避妊さえもされず。

 あれら一連の事実がもし兄の “愛情表現” なのだとすれば――さすがに自分は、そんな匠海の愛を受け止める事は無理だろう。

 ぎしりと皮の椅子が軋む音と共に、砂時計に瞳を向けた匠海は、またヴィヴィへと視線を戻して口を開いた。

「……10分じゃ済まないよ? それでもいいかい?」

(……説明して、くれるんだ……)

 ヴィヴィはこくりと頷くと、両手を伸ばして砂時計を取り上げ、ベージュのワンピの脚に横倒しで置いた。

 この1ヶ月間、2人は毎日10分、時間を共有してきた。

 その唯一の証人であるこの砂時計に、臆病なヴィヴィは縋ったのだ。

 どうか、これまでの積み重ねが、無駄な時間でありませんように――と。

 ふぅと息が吐き出された音に顔を上げると、匠海がこちらを見つめていた。

「本当はね……、葉山で告白した時に、順を追って説明するつもりだった」

「…………、ヴィヴィが、取り乱しちゃったから……」

 そういえば、あの時の兄は自分を宥めながら、「全部きちんと説明するから」と発していた気がする。

「しょうがない……。俺が読み違えた。ヴィクトリアがそこまで思い詰めていると、分かってやれていなかった。せめて、お前以外には起たないという事くらい伝えておけば、良かったんだろうけれど……。俺も男だからね……、なるべくならそんな情けない事は、口にしたくない……。特に、愛している女性には……」

 そこで言葉を区切った匠海は、口が渇くのか、また茶器を取り上げて紅茶を口に含む。

「2年半前……、葉山で泣いて告白された時は、本当に参ってしまった。その頃の俺にはどうやっても、ヴィクトリアは妹にしか見れなかった……。真行寺を紹介して、男は俺だけじゃないんだと、知って欲しかったけれど……。お前は、朝帰りをして……」

 困った様にそう零す兄に、ヴィヴィは呟く。

「……ごめんなさい……。でも、何も無かったよ……」

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