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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

「確かにヴィクトリアも、色んな努力はしていたと思う。けれどそれは、俺に対してと、自分自身の事だけだった……。俺たちが裏切っている、家族や周りに対してではなかった……。だからあの日――」

 そこで言葉を区切った兄は、細長い指で黒髪を掻き上げながら続けた。

「年末年始に帰国して、クリスと車の点検でディーラーへ行って帰宅した時……、お前が拗ねているのを見て『ああ、このままじゃ、この子はずっと気付かない』と思って……。それで、お前が言うところの『鞭』を与えようと思った」

「……確かに、ヴィヴィ……。うん、そう、だね……」

 兄2人がBMWに出掛け、帰宅してもその話に盛り上がっていて。

 自分は匠海から弟として愛されるクリスが、羨ましくてしょうがなかった。

 そう言えばあの時以降、兄の自分に対する風当たりがきつくなった気がする。

(ヴィヴィ……、罪悪感なんて感じるくらいなら、周りに目を向ける時間があるなら、その分お兄ちゃんだけを感じたくて……。お兄ちゃんに、自分を受け入れて貰いたくて……。ただ、それだけしか、考えてなくて……)

「朝比奈と五十嵐に、バレそうになるように仕向けたのは、ワザとだ。自分達がやっている事を、ヴィクトリアに理解して欲しかった。今まで育ててくれた両親やクリスに、全く罪悪感を持っていないのが気に入らなかった。これからこの関係を続けて行くということは、互いに結婚も子作りもしないと言う事だ。そういう意味でも親不孝をすることになる」

 確かに、執事達に躰の関係がバレていたら、家族の皆を哀しませる事になっていた。

 そしてその時の自分は、家族を裏切っているという自覚なんて、爪の先ほども無かった。

「……その頃は、そこまで考えたこと……、なかった」

 そう。

 兄に『鞭』を与えられ続け、それ以降、ヴィヴィは家族や周りを裏切り欺いている事に気づいた。

 ある時は、兄から直接的に「周りや家族を欺いて」と言葉を投げつけられ。

 ある時は、悪夢の中で家族や周囲に罵られ。

 ある時は、兄との事で弱っていた自分に差し伸べられた、両親やクリスからの温かい手によって。

 そして、一番大きかったのは、双子の兄のクリスから拒絶された事だった。

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