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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
そういう事が積み重なり、自分が今当たり前に出来ているスケートや日常生活が、この裏切りが発覚するだけで失われてしまう、砂上の楼閣だと気付くに至った。
ヴィヴィのその返事に、兄は重々しく頷く。
「だから、考えて欲しかった。自覚して欲しかった……。言葉で言って分かるんじゃなくて、ちゃんと身を以て理解して――、それでも最終的に、ヴィクトリアに俺を選んで欲しいと思っていた」
「……あ……っ」
そう小さな声を上げたヴィヴィには、兄の言葉に心当たりがあった。
兄が自分に『鞭』を与えなくなった頃、匠海が『鞭』を与えた意味を考え抜いた事があった。
(……何か、ヴィヴィに伝えたい事があった……?
ヴィヴィに気付いて欲しい事があった……?
例えば、言葉で伝えて解るのではなくて、
自分で体験して身を以て解かって欲しい――とか?)
「そこは、解ってくれていた……?」
ふっと表情を緩めた匠海に、ヴィヴィは硬い表情のまま頷く。
「ん……、お兄ちゃんがヴィヴィに、 “自分で気付いて欲しい事” があるんだろうなって……」
「そうか」
「……でも、ヴィヴィ、馬鹿だから……。お兄ちゃんが “何” に気付いて欲しがっているのかまでは、分からなくて……」
そう呟いてベージュのワンピの肩を落としたヴィヴィを、匠海は小さく首を振って制す。
「お前は馬鹿なんかじゃないよ。馬鹿正直なだけでね。そうだね……、俺なりに色々考えての事だったんだけれど……結局、俺のやり方は、間違っていたんだろうな……。お前の心は、俺とは違う方向へと進んで行ってしまって、俺もそれに気付いてやれなかった……。……ごめんな?」
「……ううん……」
兄の謝罪に、ヴィヴィはそう短く否定した。
匠海が謝る事など無いだろう。
事実、兄の考えていた通り、自分は周りに対してこれ以上無いほど罪悪感も覚えたし、自分がどれだけの人に支えられ今ここにあるか、気づく事も出来た。
ただ、匠海は失念していたのではないか?
――自分の妹が、思い込みが激しくて、猪突猛進タイプという事を。
実兄との恋愛事なんて誰にも相談出来る筈も無く、独りで悩み苦しんだヴィヴィは、どんどん間違った方向へと突き進み、結局自滅した。