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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 しかし、それは常の匠海であれば、犯さなかった失敗だったのではないだろうか?

 くしくも兄妹はずっと日英で遠距離であったし、これまでの兄妹としての関係に加え、互いに恋愛感情を持っていた。

 昔からヴィヴィの心の機微に敏感であった匠海なら、傍にいればすぐに気付いたであろうその変化も、そこに愛憎という色眼鏡がかかり、更に遠距離ということもあり、気付く事が出来なかった。

「『鞭』を与えている俺は、酷かっただろう?」

 匠海のその言葉に、首を横に振ろうとしたヴィヴィだったが、それは出来なかった。

「…………怖、かった……」

 本当に、恐かった。

 自分が自分でなくなりそうで。

 最後のほう、ヴィヴィは兄への恋心よりも、自身を保つ事だけに必死になっていたくらい。

「だろうね……。そう、演じていたし……。でも『鞭』を与えている時の俺も、やっぱり俺なんだよ。俺は優しいだけの男じゃない。他者を切り捨てることもするし、貶めることもする。色んな俺を知ってでもなお、俺を愛して欲しい、選んで欲しいというのもあった」

 その兄の言葉に、ヴィヴィは正直戸惑った。

 『鞭』を与えている時の兄も、本当の自分だと匠海は言う。

 けれど、ヴィヴィが愛してきたのは、愛情豊かで慈悲深い、昔から目にしてきた “兄としての匠海” 。

(……そ、んな……。ど、どうしよう……)

 そう動揺するヴィヴィに、匠海は話を続ける。

「そして、不安もあった……」

「……不安?」

「お前は可愛いし、綺麗で誰からも愛される愛らしさもあるから、いつか、結婚も出来ない障害ばかりの俺なんて、捨てられるんじゃないかと、不安だった……。まあ、まだ高校生で若いっていうのもな……」

「……お兄、ちゃん……」

 ヴィヴィは言葉を失う。

 兄も自分と同じ様な事を思っていたとは。

 自分も常に怯えていた――「もう、飽きた」、「こんなこと、終わりにしよう」。

 そう兄の口から宣告される日が来る事を、自分はずっと恐れていた。

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