この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
しかし、それは常の匠海であれば、犯さなかった失敗だったのではないだろうか?
くしくも兄妹はずっと日英で遠距離であったし、これまでの兄妹としての関係に加え、互いに恋愛感情を持っていた。
昔からヴィヴィの心の機微に敏感であった匠海なら、傍にいればすぐに気付いたであろうその変化も、そこに愛憎という色眼鏡がかかり、更に遠距離ということもあり、気付く事が出来なかった。
「『鞭』を与えている俺は、酷かっただろう?」
匠海のその言葉に、首を横に振ろうとしたヴィヴィだったが、それは出来なかった。
「…………怖、かった……」
本当に、恐かった。
自分が自分でなくなりそうで。
最後のほう、ヴィヴィは兄への恋心よりも、自身を保つ事だけに必死になっていたくらい。
「だろうね……。そう、演じていたし……。でも『鞭』を与えている時の俺も、やっぱり俺なんだよ。俺は優しいだけの男じゃない。他者を切り捨てることもするし、貶めることもする。色んな俺を知ってでもなお、俺を愛して欲しい、選んで欲しいというのもあった」
その兄の言葉に、ヴィヴィは正直戸惑った。
『鞭』を与えている時の兄も、本当の自分だと匠海は言う。
けれど、ヴィヴィが愛してきたのは、愛情豊かで慈悲深い、昔から目にしてきた “兄としての匠海” 。
(……そ、んな……。ど、どうしよう……)
そう動揺するヴィヴィに、匠海は話を続ける。
「そして、不安もあった……」
「……不安?」
「お前は可愛いし、綺麗で誰からも愛される愛らしさもあるから、いつか、結婚も出来ない障害ばかりの俺なんて、捨てられるんじゃないかと、不安だった……。まあ、まだ高校生で若いっていうのもな……」
「……お兄、ちゃん……」
ヴィヴィは言葉を失う。
兄も自分と同じ様な事を思っていたとは。
自分も常に怯えていた――「もう、飽きた」、「こんなこと、終わりにしよう」。
そう兄の口から宣告される日が来る事を、自分はずっと恐れていた。