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第100章 　 　 　 　　

　苦しそうに顔を歪めたヴィヴィは、手の中の黒砂の砂時計を睨み付ける。

（本当に……、お兄ちゃんは、ヴィヴィの事……、愛してるのかな……）

　信じられない。

　砂時計のガラスが自分の体温で白く曇っているのを見つめながら、ヴィヴィはそう兄の愛を拒絶していた。

「でも、あの時言ったことは、全部嘘だよ」

「……え……？」

　強張った表情で顔を上げたヴィヴィに、匠海は真摯な眼差しを向けながら一言一言説明した。

「俺の気持ちは、ちゃんと伝えただろう？　俺はヴィクトリアを、女性として愛しているんだよ。『近親相姦』に興奮しているから、お前とのセックスが気持ちいいんじゃない。『妹』だから執着しているんじゃない。お前を１人の人間として愛しているから、興奮も執着もするんだよ」

「…………ほん、とう……？」

「ああ。頼むからそこは信じて。申し訳なかった。本当に試しただけで、全部　嘘八百並べただけだから」

　端正な顔の前で必死に両手を合わせて許しを請う匠海に、ヴィヴィの可愛らしい顔がこれ以上ないほどくしゃりと歪む。

（嘘……だったんだ……。全部、ぜんぶ、嘘……、だったんだ……っ）

　やっと兄から納得する答えを貰い、ヴィヴィの心に蓄積していた澱（おり）の大部分が昇華し。

　少し軽くなった気持ちに涙腺が緩んだヴィヴィは、情けない声で兄を呼ぶ。

「――っ　お、兄ちゃぁん……、ふぇえ……っ」

　ぼろぼろと泣き出したヴィヴィに、兄は合わせていた手を解いて、心底申し訳なさそうに謝ってくる。

「ああ、泣かないで、ヴィクトリア……。本当に悪かった。ごめんな……。俺が弱虫なばかりに、お前ばかり苦しませてしまって……」

「ふぇえええん……っ」

　後から後から零れ落ちる涙に、匠海が何度も謝ってくる。

「ごめんっ　本当にごめんな」

「……ひっく……、　お兄ちゃんの、ばかぁ～……っ」

　お前は何歳児だ？　と言われてもおかしくないレベルで泣き続けるヴィヴィを、匠海はずっと「ごめんな」、「もう絶対に哀しませることはしないから」と謝罪し、慰めてくれていた。