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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 数分後。

 ようやく泣き止んだヴィヴィは、すっかり赤くなってしまった目と鼻を恥ずかしそうにティッシュで拭いながら、もう一度確認する。

「……ほんと、に、……嘘、なんだよ、ね……?」

 そんなヴィヴィを、匠海は真っ直ぐに見つめて大きく頷く。

「ああ、嘘だよ。はぁ……。俺は本当に馬鹿だった。ヴィクトリアはあんなに何度も、俺のことを好きって言葉にしてくれていたのに……。信じられなかったのは全て、俺が弱かったから……。お前にばかり、心労をかけさせてしまったね……」

「……う、ううん……。ヴィヴィ以上に、お兄ちゃん……っ」

 泣いた事で少し冷静になったヴィヴィは、ふるふると首を振って否定する。

(お兄ちゃんは、ヴィヴィの何十倍も何百倍も、苦しんできたんだもん……っ)

 匠海は黒髪をくしゃりと握り締めると、大きく息を吐き出した。

「正直……あの後は参ってた。俺が自分に自信が無いばかりに、ヴィクトリアを試してしまって……。結果、お前を胃炎にさせてしまうし……。謝っても許されるとは思ってないけれど、本当に、あの時は俺が悪かったよ。ごめんな?」

「ううん……。もう、いいの。だって、お兄ちゃんを不安にさせたのは、やっぱりヴィヴィなんだもん……」

「え?」

「ヴィヴィが、ちゃんと「ずっとお兄ちゃんしか見てないよ」って、「お兄ちゃんだけを永遠に愛してるんだよ」って、伝える事が出来ていれば、信じて貰えるよう努力していれば……。きっと、お兄ちゃんはヴィヴィを試すようなことなんてしなかったと思う……。うん、お兄ちゃんはそんな人じゃないもん……」

 そうだ、自分はずっと兄と一緒に育ってきて、一番近くで匠海の人となりを見てきたではないか。

 兄は『鞭』を与えていた自分も、本当の自分と言っていたが、そんな訳がある筈ない。

 人を試す様な事をしてしまったのも、元はといえば全て自分のせいだ。

「ヴィクトリア……」

「ごめんね……? 不安にさせて……」

 ヴィヴィは自分の顔を覗き込んでくる匠海に、心から謝る。

 愛している人を信じられない事ほど、辛く苦しい事は無い。

 今の自分はそれを知っている。

 自分の味わっていた苦悩を、全くそのまま匠海にも味あわせてしまっていたなんて。

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