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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
「いいんだよ。やっぱりヴィクトリアは、良い子だね」
困った様に微笑んだ匠海に、ヴィヴィは微かに首を傾げ、
「…………それは、違うと思うけど……」
そう否定しておく。
(良い子は最初から、こんな問題、起こしません……)
「ふ……。まあ、お前が入院した後は、本当にヴィクトリアの気持ちが俺から離れたと思った。スカイプで話していても、絶対に隙や弱さを見せようとしないし……。ああ、もう駄目かと。すごく焦っていた。もう遠距離なんて、本当に最悪だって……」
そう本音を漏らした匠海に、ヴィヴィは何も言う事が出来なかった。
そのほとんどが、真実と相違なかったから。
「お盆に英国に里帰りした時……、もう我慢出来なかったんだ。何とかしてお前の気を引きたくて、俺に気持ちを繋ぎ止めたくて……。なのに抱けば抱くほど、ヴィクトリアの心が離れて行くのが、手に取るように分かった。……まあ、そんな事もあって、ロンドンだけ滞在して、エディンバラにはわざと行かなかったんだ」
「え……? 用事じゃなかったの?」
確か母は、大学関連の用事でオックスフォードに戻ったと、言っていたと思ったが。
「ああ。これ以上一緒にいたら、俺を見てくれないお前を、傷つけて壊してしまいそうだったからね」
そう苦々しげに呟いた匠海は、居住まいを正してまたヴィヴィを見つめてくる。
「で、やっと留学が終わって、帰国出来て……。お前の嬉しそうな笑顔に、制服姿のあまりの可愛らしさに、もう骨抜きだったよ。『鞭』なんて与えられる筈、無かったし……。もう、与える必要も無いくらい、お前は俺達が犯している罪に気付いて、理解していた……」
「……うん……」
確かに兄の言う通り、その頃のヴィヴィは兄の求めていた事を、自分なりに理解していた。
「ヴィクトリアは気付いただろう? 俺達の犯している罪を。どれだけの人を裏切った上で、成立している恋だということを。だからもういいと思った。というか……、もう俺が限界だった。俺だって「好きだ」って、「愛している」って、いつも言いたくて言いたくてしょうがなかった。お前の不安をすべて取り除いて、心からの笑顔が見たかった」
「お兄、ちゃん……」
兄の切な気な表情に、ヴィヴィまで切なくなる。