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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

「ああ……。……話すと長くなるかもしれないから、また、明日にしようか」

 そう話を打ち切ろうとした兄に、ヴィヴィは大きく首を振ると、必死に匠海に喰らい付く。

「ううん。今、聞きたい。ヴィヴィ、ちゃんと聞けるから」

(頼むから、お願いだからもう、独りで何かを抱えて、苦しむのだけは止めて欲しいの……)

「そうか……。あのね、ヴィクトリアは知らないだろうけれど。ジュリアンは俺の産みの母親の命日に、いつも墓参りと実家への付き添いをしてくれていた……。それだけじゃないよ。産みの母親の生家――黒澤っていうんだが、そこへ俺の成長記録を送り続けてくれていた。写真や動画、成績表、乗馬の成績等をね」

「……知らなかった」

 その言葉はヴィヴィの本心だった。

 実はヴィヴィは、おそらくクリスも、兄の産みの母親の事については、何ひとつ知らされていない。

 黒澤という苗字さえも、本当に初めて耳にしたのだ。

「俺が高校卒業で乗馬を引退して、大学に通いながら後継者教育を受けたいと言った時……、最初、両親は受け入れてくれなかった。学生は学生らしく、今しか出来ないことをすべきで、後継者教育などは時が来ればすればいいこと、ってね」

 確かに、自分の子供達に唯一強要するものが “楽器演奏” だけというあの両親ならば、そう返事をしそうだ。

「……うん。でもお兄ちゃんは、親孝行息子、だから」

 匠海のそういうところも、ヴィヴィは心から尊敬していた。

 けれど目の前の兄の表情は、一瞬、険しく歪んだ。

「違うよ……、全然違う……。親孝行なんかで、そういう道を選んだんじゃない」

「え?」

「俺には “篠宮の長男” だという自負がある。それが俺の存在証明で、それを支えにこれまで生きてきた。だから絶対に、篠宮の稼業は俺が継ぐと、幼い頃から心に決めていた。クリスに奪われたくなかった……」

「え……、クリス?」

 どうしてそこに、双子の兄の名前が出てくるのか。

 ヴィヴィは戸惑った様に、そう呟く。

「ヴィクトリアも、知っているだろう? クリスが企業経営に、興味があること」

「……あ……!」

 そう小さく叫んだヴィヴィの頭に、昨年の年末の、母とクリスの会話が蘇える。

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