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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 確か、会社経営に興味があると発したクリスに、母が助言したのだ。



『じゃあ、大学進学したら、本社で勉強させてもらえば?

 さすがにスケートで忙しいから、

 大学時代の匠海と同じようにはいかないだろうけれど』

『そうだね……。兄さんが、嫌でなければ……』



(クリス……、もしかして……っ)

「クリスは、気付いていたと思う……。俺が後継者教育を受けたいと両親に言った時、偶然立ち聞きしてしまったみたいでね。後は、勘も鋭い子だから、色々感じ取ってしまったのだろうな……」

「………………」

 兄のその言葉に、ヴィヴィは何とも表現しがたい感情を持て余し、ただ小さく首肯した。

「で、跡継ぎになりたいと言った俺を、一番応援してくれたのが、ジュリアンだった。ダッドは実力主義だし、ずっと渋っていたんだが、それでも根気よく説得して、話し合いの場をセッティングしてくれたのが、マムだった」

「………………っ」

 ヴィヴィははっと息を呑むと、凍り付いた様に兄を見返す。

 その先に兄が言うであろう言葉を、自分は絶対にきちんと受け止めなければならない。

 そう解るのに、ヴィヴィは咄嗟に、この場から逃げ出したい衝動に駆られた。

「俺はそんなマムや、ずっと息子として愛してくれるダッドも、兄として慕ってくれるクリスを……、裏切りたくなかった」

「……――っ」

「だから、ヴィクトリアが俺を襲って、妹であるお前の中で吐精してしまった時、首を絞めてしまった……。許せないと思った。俺達が時間を掛けて、それぞれが努力をして “家族” という形を作り上げてきたものを、お前は俺を『愛している』と口にしながらも、一瞬にして俺から全てを奪い取ったと思った」

「………………」

 匠海の語る言葉は、とても静かだった。

 けれどそれが余計に、兄の怒りを鮮明に伝えてきて、ヴィヴィはもうただそれを受け止める事しか出来なくて。

 妹が呆然と自分を見上げている様子に、匠海は強張っていた頬を緩めると、代わりに慈愛に満ちた表情を浮かべて、続ける。

「それと同時に、お前を俺が汚してしまったと思った。正直、俺がヴィクトリアとクリスの事を、一番身近で育ててきたと思っている。兄としてだけでなく、保護者としてもね」

「…………うん……」

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