この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
確か、会社経営に興味があると発したクリスに、母が助言したのだ。
『じゃあ、大学進学したら、本社で勉強させてもらえば?
さすがにスケートで忙しいから、
大学時代の匠海と同じようにはいかないだろうけれど』
『そうだね……。兄さんが、嫌でなければ……』
(クリス……、もしかして……っ)
「クリスは、気付いていたと思う……。俺が後継者教育を受けたいと両親に言った時、偶然立ち聞きしてしまったみたいでね。後は、勘も鋭い子だから、色々感じ取ってしまったのだろうな……」
「………………」
兄のその言葉に、ヴィヴィは何とも表現しがたい感情を持て余し、ただ小さく首肯した。
「で、跡継ぎになりたいと言った俺を、一番応援してくれたのが、ジュリアンだった。ダッドは実力主義だし、ずっと渋っていたんだが、それでも根気よく説得して、話し合いの場をセッティングしてくれたのが、マムだった」
「………………っ」
ヴィヴィははっと息を呑むと、凍り付いた様に兄を見返す。
その先に兄が言うであろう言葉を、自分は絶対にきちんと受け止めなければならない。
そう解るのに、ヴィヴィは咄嗟に、この場から逃げ出したい衝動に駆られた。
「俺はそんなマムや、ずっと息子として愛してくれるダッドも、兄として慕ってくれるクリスを……、裏切りたくなかった」
「……――っ」
「だから、ヴィクトリアが俺を襲って、妹であるお前の中で吐精してしまった時、首を絞めてしまった……。許せないと思った。俺達が時間を掛けて、それぞれが努力をして “家族” という形を作り上げてきたものを、お前は俺を『愛している』と口にしながらも、一瞬にして俺から全てを奪い取ったと思った」
「………………」
匠海の語る言葉は、とても静かだった。
けれどそれが余計に、兄の怒りを鮮明に伝えてきて、ヴィヴィはもうただそれを受け止める事しか出来なくて。
妹が呆然と自分を見上げている様子に、匠海は強張っていた頬を緩めると、代わりに慈愛に満ちた表情を浮かべて、続ける。
「それと同時に、お前を俺が汚してしまったと思った。正直、俺がヴィクトリアとクリスの事を、一番身近で育ててきたと思っている。兄としてだけでなく、保護者としてもね」
「…………うん……」