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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 しばらく俯いていたヴィヴィは、兄の優しい言葉に励まされ、情けない顔を匠海の前に晒す。

「ごめんな、ヴィクトリア。一番大切なことを、言い忘れていたね……。お前はずっと俺を救ってくれていた。お前達が産まれてくるまで、俺はずっと孤独だった。両親が愛情を掛けて育ててくれているのは分かっていたけれど、2人ともやはり忙しくて、家に居られなくて……」

「……うん……」

 兄は3歳の時に生みの母と死別し、5歳の時に父とジュリアンが再婚し、翌年双子が生まれた。

 こんな広い家に、まだ幼い匠海が独り、使用人に囲まれて生活していたかと思うと、その心境を想像するだけで胸が潰れそうになる。

「クリスとヴィクトリアが生まれて、お前が俺だけをずっとその愛らしい瞳で見続けてくれて、どれだけ俺が救われてきたか……。どれだけ沢山の愛情を、感じる事が出来たか……。最初に俺に “家族” を与えてくれたのは、ヴィクトリア、お前だった――」

「……――っ」

 心底愛おしそうに自分を覗き込んでくる匠海に、ヴィヴィはふるふると首を振る。

 自分は本当に何もしていない。

 自分はただ兄が大好きで、ただずっと纏わり付いて甘えていただけ。

「ヴィクトリア、お前が俺の傍にいてくれなかったら、俺はずっと愛情を感じずに育ってきたかもしれない」

「……そんな、こと……っ」

 匠海は昔から誰にでも優しくて、大らかで、愛情に溢れた人間だった。

 それはきっと、ヴィヴィが傍に居ても居なくても変わらない、兄が持って生まれた資質だ。

「本当だよ。俺、昔から何度も言っただろう? 『ヴィヴィ、愛してるよ』って。それはね、お返しだったんだ。ちっちゃなヴィクトリアが、全身全霊で俺を愛してくれたから」

「……~~っ お、にい、ちゃん……っ」

(なんで……、なんでそんなに、ヴィヴィなんかに、優しく出来るの……?)

「だからね、お前がどんな過ちを犯そうが、俺は結局お前を許してしまう。それどころか……、もう女性として愛してしまったしな」

 そう言って明るく笑い飛ばした匠海に、ヴィヴィは眉尻を下げてぼそぼそと呟く。

「……ヴィヴィ、何もしてない。ヴィヴィ、何も出来ない……」

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