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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
ヴィヴィは兄の瞳に囚われて、ただずっと見つめ返す事しか出来なくて。
「俺を……俺の愛を、受け入れてくれ、ヴィクトリア」
「………………っ」
そう懇願する兄は、とても弱そうに見えた。
あんなに大人だと思っていたのに。
あんなに大きな存在だったのに。
目の前の匠海は、ただただヴィヴィの愛を乞い、己の気持ちを受け入れて欲しいと必死だった。
だから、ヴィヴィは頷く。
ゆっくり、確実に頷く。
今の自分に出来るのはそれしかないのであれば、そうしたい。
兄の気持ちを受け入れたい。
やっと寛いだ表情を見せてくれた匠海が、ヴィヴィに確認してくる。
「触れても、いいか?」
ただそれだけの事を。
けれどその一言が、今のヴィヴィには響いた。
匠海は自分の存在を、意思を、きちんと尊重し、大事に扱ってくれている――と。
「……うん……」
目の前の兄の片腕が持ち上げられ、ゆっくりと自分に伸びてくる。
長くて少し骨ばった指先が、自分の頬骨の上に触れた時、ヴィヴィの華奢な身体がぴくりと跳ねた。
微かに離れた兄の指先が、またその上を辿り、ゆっくりと頬の輪郭を伝い落ちて行く。
もう片方の腕が伸ばされ、掌で頬を優しく包まれる。
(温かい……お兄ちゃんの、手……)
しばらくヴィヴィの輪郭を確かめる様に這わされていたその両手は、やがてワンピースの背に添えられ、ゆっくりと匠海の胸の中に引き寄せられた。
「ああ、ヴィクトリア……、ずっとこうしたかったよ。お前を抱き締めたかった……っ」
そう耳元で囁いてきた匠海の声は、微かに震えていた。
「お兄……ちゃん……」
一方のヴィヴィは、両腕ごと抱き締められ、兄を抱き返す事は出来なくて。
「震えてる……。まだ、俺が怖いか?」
兄のその寂しそうな声音に、ヴィヴィはその胸の中で咄嗟に否定した。
「ち、違う……。恥ずかしい、の……。ひ、久しぶりだしっ」
そう答えたヴィヴィの言葉は、決して嘘ではなかった。