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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
「大丈夫。まだお前を抱かないよ」
「え……?」
「俺の気持ちを受け入れてくれただけで、今は十分だからね」
「……お兄ちゃん……」
そうヴィヴィに伝えた匠海は、あまりにもあっさりと、妹への抱擁を解いて離れた。
そして袖を捲って腕時計に視線を落とすと、明るい声でヴィヴィを促す。
「ほら、もうすぐクリスが戻ってくる。受験も近いんだし、ちゃんと勉強するんだよ?」
「うん……」
頷いてゆっくりと椅子から立ち上がったヴィヴィを、匠海は安心した様に見上げてきた。
「お兄ちゃん……」
「ん?」
「話してくれて……、ありがとう……」
ヴィヴィはそう礼を口にすると、ぺこりと兄に向って金色の頭を下げた。
背中の中ほどまである長い髪が、さらさらと自分の顔を覆い隠す。
(きっと思い出すのも辛い事、沢山あったと思うのに。ちゃんとヴィヴィに、説明してくれて……)
「……、こちらこそ、長い話を付き合ってくれて、ありがとうな。ふ……、勉強前に疲れさせちゃったな?」
兄のその労いの言葉に、ヴィヴィは顔を上げ、小さく首を振った。
「全然、大丈夫……。あのままだと気になって、何も手につかなかった……。本当に、ありがとう……」
その後、軽くランチを摂ったヴィヴィは、帰宅したクリスに今朝心配をかけた事を謝り。
予定通り受験勉強をし、ディナーには父も匠海も揃い、楽しい時間を持てた。
それからも受験戦争まっしぐらに、双子は勉強に打ち込んだのだった。
(加法定理が、2倍角の公式で……、座表面だから、外接円も……)
頭の中でぐるぐる回っているのは、先程まで取り組んでいた数学Ⅱの過去問。
ぼ~と気を抜いていると、いつまでもそれらが頭の中から抜けてくれなさそうで、ヴィヴィはぶんぶんと小さな頭を振り、物理的に脳みそから放り捨てた。
そして剥き出しだった両肩を、バスソルトを溶かした湯の中に沈めて身体を温める。
ぬくぬくしながらまたぼ~としていると、次に頭の中を占拠したのは、午前中の匠海との会話。
ヴィヴィが兄に告白してからの、匠海側で起きていた事、その時の気持ち。
そして苦しい心の内を吐露してくれた、家族への思い。