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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 けれど日付が変わる時間になっても、兄は妹の部屋を訪れる事は無くて。

 ヴィヴィが不安そうな表情を浮かべていたのであろうか、朝比奈が口を開く。

「今日は、匠海様はお越しでないのでしょうか? 私が確認して参りましょうか?」

 1ヶ月前、葉山から不機嫌で帰宅したヴィヴィに、朝比奈は匠海に対して怒りを溜め込んでいるようだった。

 しかし、今は違う。

 仲違いをしている兄妹が、徐々に家族としての絆を取り戻しつつあるのを、静かに見守ってくれていた。

 ヴィヴィは自分の執事を見上げると、小さく微笑んで首を振る。

「大丈夫。今日はもう、寝るね」

「畏まりました。お休みなさいませ」

 ソファーテーブルを片した朝比奈が、トレイを手に退出するのを、ヴィヴィはソファーに座ったまま見送った。

「おやすみなさい、朝比奈」

 扉が静かに閉められ、ヴィヴィは視線を自分の膝へと戻した。

 ラベンダー色のパイル地のナイトウェア。

 その膝丈のスカートの上で、ヴィヴィはきゅっと両手を握り締める。

(あと、1分待って、みよう……うん……)

 白石のマントルピースの上に鎮座した置時計で時間を測りながら、ヴィヴィはそわそわする。

 腰の位置で長さを調節できる紐を、いじいじしたり。

 寒くもないのに五分袖から延びる腕を、さすさすしたり。

 長い金色の髪を両手で握って、なぜか顎の前で毛先を、つんつんしたり。

「………………」

 結局あっという間に1分が経過し、ヴィヴィは静かに白皮のソファーから腰を上げた。

(いるのは、分かってるの……、隣からたまに、物音がするし……)

 じっと兄の私室へと通じる扉を見つめたヴィヴィは、小さく吐息を零すと、壁の照明パネルを押してリビングの照明を消した。

 暗闇が落ちたそこから自分の寝室へと向かったヴィヴィは、ベッドサイドのランプだけが灯されたそこに入り扉を閉めた。

 すごすごとベッドへと近付きよじ登ったヴィヴィは、羽根布団を捲りその中に身を横たえ、眠りに就いた。

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