この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章
けれど日付が変わる時間になっても、兄は妹の部屋を訪れる事は無くて。
ヴィヴィが不安そうな表情を浮かべていたのであろうか、朝比奈が口を開く。
「今日は、匠海様はお越しでないのでしょうか? 私が確認して参りましょうか?」
1ヶ月前、葉山から不機嫌で帰宅したヴィヴィに、朝比奈は匠海に対して怒りを溜め込んでいるようだった。
しかし、今は違う。
仲違いをしている兄妹が、徐々に家族としての絆を取り戻しつつあるのを、静かに見守ってくれていた。
ヴィヴィは自分の執事を見上げると、小さく微笑んで首を振る。
「大丈夫。今日はもう、寝るね」
「畏まりました。お休みなさいませ」
ソファーテーブルを片した朝比奈が、トレイを手に退出するのを、ヴィヴィはソファーに座ったまま見送った。
「おやすみなさい、朝比奈」
扉が静かに閉められ、ヴィヴィは視線を自分の膝へと戻した。
ラベンダー色のパイル地のナイトウェア。
その膝丈のスカートの上で、ヴィヴィはきゅっと両手を握り締める。
(あと、1分待って、みよう……うん……)
白石のマントルピースの上に鎮座した置時計で時間を測りながら、ヴィヴィはそわそわする。
腰の位置で長さを調節できる紐を、いじいじしたり。
寒くもないのに五分袖から延びる腕を、さすさすしたり。
長い金色の髪を両手で握って、なぜか顎の前で毛先を、つんつんしたり。
「………………」
結局あっという間に1分が経過し、ヴィヴィは静かに白皮のソファーから腰を上げた。
(いるのは、分かってるの……、隣からたまに、物音がするし……)
じっと兄の私室へと通じる扉を見つめたヴィヴィは、小さく吐息を零すと、壁の照明パネルを押してリビングの照明を消した。
暗闇が落ちたそこから自分の寝室へと向かったヴィヴィは、ベッドサイドのランプだけが灯されたそこに入り扉を閉めた。
すごすごとベッドへと近付きよじ登ったヴィヴィは、羽根布団を捲りその中に身を横たえ、眠りに就いた。