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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 と思ったら、がばと飛び起き、ベッドから抜け出した。

 ルームシューズをひっかけ、足早に向かったのはもちろん、匠海の私室へ通ずる扉の前。

 胸の前で軽く拳を握ったヴィヴィは、心の中で呟く。

(……「おやすみなさい」って、言うだけ……なんだもん)

 こくりと頷いたのは、自分の考えに対する同意。

(お兄ちゃんの顔見ないと、寝れないとか……、そんなんじゃないし……。ただ、最近毎日、寝る前に顔、見てたから……、見ないと変な感じがするだけ、なんだもんっっ)

 誰に対してかそう言い訳にしか聞こえない事を思うヴィヴィは、拳を硬く握りしめる。

「…………ふぅ」

 小さく深呼吸したヴィヴィは、こんこんと2回、軽くノックした。

「……はい、どうぞ?」

 扉越しに聞こえたくぐもった兄の声に、ヴィヴィはドアノブを握ると、ゆっくりと扉を開けた。

 広いリビングの中央、黒皮のL字ソファーに腰かけた匠海は、クッションを重ねた上に背を預け、長い脚をソファーの上に投げ出していた。

 その腹の上には本が開かれたまま置かれていたので、どうやら読書中だったらしい。

 ふっと優しく瞳を細めた兄が、戸口に立ったままのヴィヴィを見つめてくる。

「ああ、ヴィクトリアか。どうした?」

 匠海のその問いに、ヴィヴィは頭が真っ白になってしまい、その場に立ち尽くした。

 灰色の瞳が心の動揺を表しすぎなほど、左右に揺れまくる。

「……えっと……」

(ど、どうしたって、言われても……)

 ヴィヴィは心の中でそう呟き、その時になって、ようやく自分の過ちに気づく。

 今日は午前中に、既に10分以上の対話をしていたのだ。

 だから兄は、いつもの就寝前にはヴィヴィを呼びに来なかったのか。

 今頃になって兄の行動の理由が分かったヴィヴィは、心の中で頭を抱えた。

 ぎしりと音がしてそちらに視線を戻せば、匠海がソファーから両脚を下ろし、自分に手招きしている。

「ふ……、おいで」

 そのあまりに暖かな声音に、ヴィヴィの心臓がとくりと不整な脈を刻む。

(あ……、でもお兄ちゃんの、読書の邪魔になっちゃうんじゃ……?)

 そう気遣ったヴィヴィは、兄がテーブルの上に置いた書籍に視線を注ぐ。

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