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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

「いいんだよ。不安だったんだろう?」

「…………うん」

 匠海に対する、不安と恐怖の念。

 自分が勝手に見た悪夢が原因だったとはいえ、きっとそれはヴィヴィの中の潜在意識としてあったから、そんな夢を見てしまったのだろう。

「大丈夫。ちゃんと分かってたから」

 そう優しく囁きながら、掌の中に収めた妹の手をぎゅっと握った匠海に、ヴィヴィは頭を垂れた。

(お兄ちゃんは、ちゃんとそこまで解っていて……、ずっと辛抱強く、ヴィヴィを待っててくれたんだ……)

「本当に、ごめんなさい……っ」

 自分も兄の指を握り返しながらしっかりした口調でそう謝罪したヴィヴィに、匠海はまるで宥める様に、その繋いだ手をぽんぽんとソファーの上で弾ませた。

「今は……? まだ、不安?」

 俯いた妹を気遣わしげに覗き込んでくる兄に、ヴィヴィはぱっと面を上げ、首を横に振る。

「ううん。お兄ちゃんのこと、信じるもん。ヴィヴィ……、お兄ちゃんの気持ち、信じてるもん……っ」

 兄はきちんと自分に説明してくれた。

 そしてその説明と謝罪に、ヴィヴィは理解し納得し、自分の非に改めて気付かされたから。

 だから、匠海の事は、ヴィヴィはもう全面的に信じている。

「ありがとう、ヴィクトリア」

 そう礼を口にした匠海の顔が心底嬉しそうなもので、ヴィヴィは苦しそうに眉を顰め、また俯いた。

(信じる、から……。お兄ちゃんの事、信じてるから……。だから……)

「…………もう一度」

「ん?」

 俯いたまま小さく呟いたヴィヴィに、匠海がそう短く相槌を返してくる。

「もう一度、言って……?」

 今度は先程よりも、少しだけ大きな声が出た。

「え……?」

「……ヴィヴィを、好きって……、言って……?」

 そう懇願した妹の手を握る匠海の掌に、ぐっと力が込められたのを、ヴィヴィは気付いた。

「…………、ヴィクトリア……、好きだよ」

「……うん……」

 頷いたヴィヴィの胸が、きゅううとゆっくり締め付けられていく。

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