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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第23章                        

 二日間でヴィヴィのSPを振り付け終えた宮田は、リンク脇のフェンスに持たれながらほっと胸を撫で下ろした。

「ヴィヴィはクリスほどじゃないけれど、勘が良いから助かったよ――こちらの意図を汲み取るスピードが速い」

「…………?」

 不思議そうに見上げてくるヴィヴィに、宮田が苦笑する。

「いや、ヴィヴィに言われてほいほい和楽を選んじゃったけど……正直、失敗したかなと思ったよ。あの時は――」

 あの時――つまり初日の『わびさび』知らない騒動のことを言われていると気づいたヴィヴィは、申し訳なさそうに微笑んだ。

「あ~、その節はご心配おかけしました」

 ヴィヴィは父と同じく自分を日本びいきだと思っていた。

 七夕好きだし、年末の除夜の鐘を鳴らす風習も、お正月の初詣でも好きだ。

 和食はどの料理よりもこよなく愛しているし、子供の頃は七五三のお祝いもしっかりしてもらった。

 しかし如何せん、私生活がリンクと学校と家の往復ばかりで、しかも学校は英国のインターナショナルスクールだ。

 歴史の授業は英国や世界史を扱い、形ばかりの日本語の授業と日本の風習を簡素化して取り入れた年中行事くらいでしか、日本文化に触れあっていない。

 ヴィヴィは「う~ん」とうなり声をあげて胸の前で腕を組んだ。

「『生粋の日本人への路(みち)」は、まだまだ遠いですね~」

 その様子に宮田は小さく笑ったが「そうでもないよ?」と返してきた。

「え……?」

「いやね……昨日馴染みの日本人選手数人に『わびさびを説明してみて?』って聞いたら、誰も答えられなかったんだ」

 困ったように笑う宮田に、ヴィヴィは驚く。

「えっ! そうなんですか?」

「そう……最近の若い子はそういうもんなんだよ。だから、ヴィヴィも同じだ」

 まるで年寄りのようにそう言った宮田にヴィヴィは内心苦笑したが、すぐに思考を切り替える。

「そうですか~。そう思うと、『海の路』は結構難しいテーマになりますね」

「そうだね。今シーズンかけて、周りを巻き込んでイメージを育て上げていく必要があるね」

「でも、そう思うと……なんだが楽しいですね!」

 難しい表情で考え込み始めた宮田の前で、ヴィヴィは無邪気にそう発する。

「楽しい――?」

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