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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第23章
「はい! ヴィヴィ、これから日本のことをもっと勉強しようと思います。手始めは和楽器! とっても素敵な音色で大好きです。後は、先生がくれた日本の画集や写真集。綺麗だった……。お寺とかあまり行ったことなかったけれど、地方に行ったときに訪ねてみようと思います」
六月に入ると地方を回るショーがいくつも予定されていた。
「なるほど……自分と一緒に、プログラムも成長させて行こうという訳だ?」
「はい。昨シーズンの先生の剣の舞――ヴィヴィ、シーズンを通して色んなことを勉強しました。それをまた出来ると思うと……ちょっと大変だろうけれど……楽しみのほうが大きいです」
ヴィヴィのそんな前向きな姿勢に、宮田が目尻の皺を深くした。
「そうか……そうだな……」
一年前からのヴィヴィからは想像できないしっかりした発言に感慨深そうにそう呟いた宮田は、金色の頭に大きな掌を乗せる。そして、
「そうやって一歩ずつ、いいスケーターに……いい大人になりなさい――」
そう噛んで言い含めるように語った宮田に、ヴィヴィは「はい!」と天真爛漫な笑みで答えた。
六月後半。
ヴィヴィ達双子はアイスショーに出演した。
ヴィヴィはジャンナが曲を選び振付けてくれたエキシビションを初披露する。
実は六月中旬に双子のホームページで、SP、FS、エキシビジョンナンバーを報告したのだが、一番反響が大きかったのは意外なことにエキシビションだった。
『ヴィクトリアちゃんがあの曲を滑ってくれるなんて――!!』
『日本のフィギュアファンならずとも日本人なら誰もが耳にしたことのあるこの曲を、ヴィヴィちゃんがどう表現してくれるのか。わくわくしすぎて動悸が止まりません!!』
ジャンナが選んだエキシビションは、岡本知高氏のボレロ~Passion on Ice~。
三年前のソチオリンピックまで、某テレビ局のフィギュア番組のメインテーマとして用いられていた曲だ。
日本人に馴染みが深いこの曲を何故ロシア人のジャンナが知っているのか。
それは日本に振付のために訪れていたジャンナが、日本のフィギュア番組を見て「素晴らしい!」と感銘を受け、記憶に留めていたからだ。
そういった嬉しい誤算もあり、曲を選んでくれたジャンナには本当に頭が上がらなかった。