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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 昔の片思い時代を思い出し、さらに涙腺が刺激されたヴィヴィに、匠海が苦笑してその鼻の上にティッシュを被せてくる。

「ほら、泣き止んで。鼻噛もうね。ち~んして?」

 数枚重ねたティッシュの上から自分の鼻を押さえられ、ヴィヴィは喚いた。

「じ、自分で噛める~っ!!」

「あはは。悪いわるい。ヴィクトリアがちっちゃな頃を、思い出してしまってね」

 そう笑い続ける兄の前で、ヴィヴィはち~んと鼻を噛んだ。

 数分後。

 やっと涙が引いたヴィヴィは、まだ繋がれたままの兄の手を見下ろした。

 そして、自分の方へと少しだけ引っ張ると、気付いた匠海が微かに首を傾げてきた。

「お兄ちゃん……、ちゅー、して……?」

 いきなりそんな大胆な事を言い出した妹に、兄は驚いた様に、一瞬灰色の瞳を微かに見開いた。

「いいのか……?」

 律儀に確認してくる匠海に、ヴィヴィは頬が熱くなっていくのを感じながら、小さく頷いた。

「……うん……」

 ぎしりという皮が歪む音と共に、兄の上半身がヴィヴィに寄って来る。

 最初60cmくらいだった距離が半分くらいになると、香ってきたのは兄が使っているボディーソープの香り。

 ゆっくりと近付いてくる兄の端正な顔が、微かに傾き。

 ぎゅっと握り締められた掌に、意識を移したその直後。

 ヴィヴィは自分の唇に触れる柔らかな感触に、ぴくりと華奢な肩を戦慄かせた。

 ただ押し付けられるだけの兄の唇。

 けれど、暖かくて、張りのある皮膚が気持ち良くて。

 どくどくと加速していく自分の心臓を感じ始めた頃、兄は触れていた唇を離した。

(……や……っ)

 咄嗟に胸の中でそう叫んだヴィヴィは、ぎゅっと兄の指を握り締める。

(……もっと……)

 その思いを込めて至近距離で兄の瞳を覗き込めば、また近付いてきた匠海の唇がヴィヴィに触れた。

 けれどそのキスもまた、唇を触れ合わせるだけのもので。

 ゆっくりと離れて行く兄に、ヴィヴィの身体が切なさにじくりと痺れた。

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