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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 皮の軋む音と共にまた元の位置に座りなおした匠海は、微笑んでヴィヴィを見つめてくる。

「ありがとう、ヴィクトリア……。でも、急がなくていいんだよ? 俺はいつまでも、待――」

「お兄ちゃん、ヴィヴィに、触れて?」

 兄の言葉を遮り、ヴィヴィはそう催促した。

 途端に戸惑った表情を浮かべた匠海が、いつもの兄らしくなく言い淀む。

「……え……? いや、でも……」

「ヴィヴィ……、もう、お兄ちゃんのこと、怖くないよ……?」

 兄の方に身体を向けてちゃんとそう口にしたヴィヴィに、匠海はやっと落ち着いた声で返してくる。

「本当に?」

「うん……。信じてるから」

(お兄ちゃんがヴィヴィを愛してくれている事も、ヴィヴィがお兄ちゃんを愛している事も、ちゃんと分ったから……)

 その気持ちを込めて兄の瞳を見つめれば、

「……でも、たぶん、今触れたら……、止められなくなる……」

 必死に自分の欲望を抑え込もうとしてくれている匠海に、更にヴィヴィの心と躰が疼いた。

「いいよ」

「ヴィクトリア……」

 そう自分の名を呼ぶだけで、手を出してこない兄に、ヴィヴィは痺れを切らしたように強請る。

「……っていうか、ヴィヴィ、触って欲しい……」

「ん?」

「ヴィヴィ、に、触れて、欲しい……。ヴィヴィも、お兄ちゃんに、触れたいよ……っ」

「うん。俺も」

 妹の可愛いおねだりを、微笑んで見下ろしてくるだけの兄に、ヴィヴィはむずがる。

(ずるいの……。お兄ちゃん、全部、ヴィヴィに言わせようとしてる……っ)

「……お兄ちゃんと、ひとつに、なりたいのっ」

 そう心の内を言葉にして見せたヴィヴィに、匠海はというと、心底幸せそうな微笑みを浮かべ、

「ああ。なんて素敵な誘惑なんだろうね」

 聞いているこちらの方が誘惑されている気がする程、男の色香全開でそう囁いてきた匠海に、ヴィヴィは心の隅でちょっとだけ後悔した。

(……なんか……、やっぱり、お兄ちゃんの掌の上で、転がされてる気がするの……)

 それを少し悔しいと思いながらも、まあ、いいか――と思う自分もいたのは、匠海には秘密だ。

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