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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第23章
文字通りアイスショーは大盛況で、チケットを取れず当日券を求めて連日長蛇の列が作られ、現場は大混乱だった。
「やるじゃん……客寄せパンダ……」
クリスのそんな軽口に舌を出してあっかんべーをして見せたヴィヴィ。
ショーは七月と八月にも用意されており、その一つが日光であることを知ったヴィヴィは率先し自由時間に神社仏閣を訪れた。
それに積極的に付き合ってくれたのは、アイスダンスの渋谷兄妹。
「今年は『カントリーダンス』が課題なんだ~。だからうちは和物をするんだけど、私達もヴィヴィと同じ。日本の文化とは中々縁遠くてね」
見た目は日本人だが渋谷兄妹はアメリカで生まれ育ち、向こうの大学に通っているから日本文化に馴染みが薄い。
妹のマリアはそう言いながら熱心に見て回り、境内にある説明書きを興味深く目で追っていた。
そして兄のアルフレッドは、趣味である写真や動画を撮り溜めていた。
ヴィヴィも後について回りながら、ふと視線を横へとずらす。
その先には適当に整えられた竹林があった。
ヴィヴィは何故か吸い寄せられるように、ふらふらとそちらへ歩を向ける。
足を取られそうなほど深く降り積もった笹の落ち葉に覆われた地面からは、真っ直ぐな竹が幾本も空へと向かい伸びている。
じりじりと照り付ける太陽を適度に遮ってくれる葉は、時折吹き抜ける風にシャラシャラと涼しげな葉音を立てる。
その場所は先ほどまでいた場所とは一線を画し、心地よい静寂に満ちていた。
日光はヴィヴィが思っていたよりも観光地だった。
寺に行けば人が溢れていて、日本の美を感じるどころではない。
それにヴィヴィとクリスは本人達も知らない内に、有名人になっていた。
参道を歩けば写真を撮られ、握手を求められることもしばしば。
初めての経験に疲労困憊してしまったヴィヴィは、偶然見つけた人気のない場所に笑みを深めた。
両手を広げ、深呼吸をしてみる。
(色んな香りがする……竹の香り……落ち葉の匂い……少し湿度を感じる、苔生した匂い――)
存分に嗅覚を使って感じ取ると、竹に近づいてみる。
(そう言えば、篠笛って篠竹っていう竹から出来てるんだよね。尺八もそう。真竹から出来ている――)
種類は違えど同じ竹に穴を開けただけで完成する日本の笛に、ヴィヴィは驚いた。