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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第23章
「あんなに豊かな音色(おんしょく)なのに……」
立派な太い竹に歩み寄り、手のひらで触れてみる。
ひんやりとしてツルツルの質感が心地よい。
時折風に揺られて軋むさまも掌越しに伝わってくる。
そしてその視線の先には、苔生した大きな岩が地面から露出していた。
『わびさびの “侘び” は粗末な様子や簡素な様子を表し、“寂び” は時間の経過によって劣化する様子を表します』
あの日、『わびさび』講座をしてくれた宮田の言葉が蘇る。
『つまり古いものの内側から滲み出てくるような、外見などに関係しない美しさのことを指します。具体的な例を挙げるならば――苔の生えた石ですね。誰も動かさない石は日本の湿度の高い風土の中では表面に苔が生え、緑色になる。日本人はこれを、石の内部から出てくるものに見立て愛でます。つまりこのように古びた様子に美を見出す態度のことをわびさびと言います』
成程――宮田の言うとおり、苔生した岩には何か力が宿っているように見える。
神秘的で、静謐で、閑寂な空気が辺りに満ちている。
「う~ん……わびさびへの路は深くて、まだまだ遠い……」
そう呟いたヴィヴィのすぐ傍で、かさりと落ち葉を踏む音がする。
音のしたほうを振り向くと、クリスが立っていた。
「こら……勝手にいなくなるな……」
「ごめん……でも、良くない? ここ――」
まったく悪びれずにそう言うヴィヴィに、クリスはこつりと拳骨を落としながらも頷く。
「静かで……いいね……」
その長身と類稀な美貌で、先ほどまでフィギュアファンならずとも女性達にきゃあきゃあと囲まれていたクリスは、げんなりとしながらそう呟く。
「ふふ、お疲れ様~」
そう言ってクリスを労わりながら、ヴィヴィは竹林を携帯電話で写真に収める。
そしてその横では撮影に熱中するヴィヴィを、クリスが撮影していたのだが、その時のヴィヴィは全く気付いていなかった。
しかし後日、双子HPのクリス‘S ダイアリーを見たとき、ヴィヴィは思いっきり脱力したのだった。
7月24日
輝夜姫、発見。
添付:画像