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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第100章         

 確実に有り余るほどの幸せを感じているのに、心の隅ではそう思ってしまうのは、今はしょうがないだろう。

 なにせこの2年半、それだけの事をヴィヴィは味わってきたのだから。

 このまま眠りに就いて、翌朝起きれば、葉山で告白された以降の出来事は、全て夢だった――。

 そういう “オチ” が待ち受けていないかどうかだなんて、今のヴィヴィには知る由もない。

 ぎゅっと目蓋を瞑ったヴィヴィは、自分に待ち受けているかもしれない残酷な運命に、心の中で必死に抗う。

(嫌だ……、もう絶対、お兄ちゃんを離したくない……っ 

 やっとヴィヴィの気持ちを受け入れてくれたの。

 やっと互いに愛を共有出来る関係にまでなれたの。

 だから、だから、絶対に……っ)

 その気持ちを込めて、ヴィヴィは兄の肩に顔を埋めたまま、唇を開いた。

「……お兄、ちゃん……」

 ちょっと、声が固すぎただろうか。

「なんだい?」

 ああ、大丈夫だったか。

「デート……、また、してくれる?」

「ああ。でも遠方は、受験終わってからな」

 受験生の自分を気遣ってくれる兄の心に、ヴィヴィの心が微かに軽くなる。

「葉山……、また、行こうね?」

 絶対よ?

「勿論。冬の海っていうのも、またいいぞ?」

 自分を撫でながらそう答えてくれた兄の感触に、ヴィヴィの躰が少し弛緩する。

「……毎日……」

 そう、毎日。

「ん?」

「毎日、ヴィヴィとちゅー……、してくれる……?」

 まだ、不安なの。

 まだまだ、不安なの。

 自分がお兄ちゃんに愛されるに足る人間なのか。

「ふ……。お前の可愛い唇が “たらこ” になるくらい、してやる」

「あはっ」

 兄のまさかの返しに、ヴィヴィはやっと笑顔になり、匠海の滑らかな肩の感触を惜しみながら顔を上げた。

「薔薇、一緒に見ようね?」

 そう、お兄ちゃんがヴィヴィの為に植えてくれた、あの薔薇よ?

「ああ。5月になったらな」

「誕生日に、間に合うかな?」

 双子と匠海の誕生日は、5月頭だ。

「きっとな」

「ふふ……、楽しみっ」

 灰色の瞳を嬉しそうに細めたヴィヴィに、匠海がこつりと互いのおでこを合わせてくる。

「ヴィクトリア?」

「なあに?」

 ヴィヴィは瞳を瞬きながら、自分と同じ色の兄の瞳を見つめる。

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