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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章
11月8日(日)。
「……リア……、ヴィクトリア……」
自分を呼ぶ、低めの柔らかな声音。
頬を撫でる、暖かな吐息。
そして、大好きな人の、肌の香り。
「……ぅ、ん……」
自分の大好きなもの達に囲まれて、最高の目覚めを迎えたヴィヴィは、微かな唸りと共に覚醒し。
「おはよう、ヴィクトリア。後10分で、5時になるよ?」
そう微笑みながら起床を促す兄の匠海に、寝起きのとろんとした瞳を向ける。
「………………」
「どうした?」
「……ん……」
兄の問いにそう微かに頷きながらも、ヴィヴィの灰色の瞳は、どこか所在無げに彷徨っている。
隣に躰を横たえていた匠海が、ヴィヴィの剥き出しの肩を大きな掌で掴み、シーツの上に押し付ける様に覆い被さった。
「もしかして、昨日の事……、覚えて無いとか、言わないよな?」
そう確認してくる兄の表情は、これ以上ないほど悲壮なもので。
「…………おぼえ、て……る……」
ヴィヴィが答えた途端、匠海は脱力したように、がくりと頭を落とした。
「よ、良かった……」
兄の黒髪がヴィヴィの鼻頭に、さらりと触れる。
擽ったくて身じろぎしたヴィヴィは、ようやくそこで会話らしい会話を口にした。
「……夢……、じゃない、の……?」
自分の肩などすっぽりと包み込んでしまう、大きくて暖かな掌の感触も。
自分の返事なんかで、心底ほっとしている目の前の匠海も。
昨夜の、幸せな記憶も。
約束も。
全て――、
(夢……じゃ、ない……?)
半信半疑のヴィヴィの上で、顔を上げた匠海が、自分を見下ろしてくる。
「…………、夢の方が、良かったのか?」
細められた灰色の瞳が、自分の返事ひとつで、今にも泣き出しそうで。
そう問う声が、あまりに哀しそうで。
咄嗟に微かに首を横に振ったヴィヴィは、投げ出していた両手を上げ、上に被さる匠海の両頬を恐るおそる包み込む。
そしてもう一度、今度は大きく首を振ると、はっきりとした声を発した。
「夢、じゃなくて……、良か……っ」
良かった、と目の前の兄に伝えたいのにぐうと咽喉が塞がり、ヴィヴィはくしゃりと顔を顰めた。