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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章          

 歯ブラシに歯磨きペーストを乗せ、口の中に突っ込んだ時、

「おはようございます、お嬢様」

 開け放していたバスルームの扉の前、今日も黒いスーツを身に纏った朝比奈が、一部の乱れも無い佇まいで自分を見つめていた。

「もはよう、あはひな」

 「おはよう、朝比奈」と伝えたかったらしい主のその可愛い挨拶に、執事は銀縁眼鏡の奥の瞳を細める。

「クリス様を、起こして参ります」

 目礼していなくなった朝比奈から鏡に視線を移し、ヴィヴィは3分間、歯を磨き続ける。

 鏡の中の自分は、すっきりした顔をしていた。

 昨日、兄から今までの経緯の説明を受け。

 そして夜、ヴィヴィは自分から懇願して、兄に抱かれた。
 
 優しく、あくまでも優しく。

 ヴィヴィは兄にくまなく躰を愛されながら、思っていた。

 まるで、初めて抱くみたいに――処女の様に丁寧に抱かれている、と。

(いや……、お兄ちゃんとひとつになってからは、激しかったけど……)

 ヴィヴィはその時の事を思い出してぽっと頬を染めると、それを頭から追い出すように口をゆすぎ、顔を洗った。

「……ふぅ……」

 タオルで濡れた顔を押さえながら、小さな吐息を零したヴィヴィの視線の先、

 作り付けの白い洗面台、数ある引出しのうちの1つが目に留まる。

 白い指先に引っ掛け、引き出しを引いたヴィヴィは、そこに在る物に灰色の瞳を向けた。

 白い革の長方形の箱、スウェード張りの中に美しく横たえられた金色の鎖。

 葉山の別荘から、兄と喧嘩別れして帰ってきた翌朝。

 確かにヴィヴィはここに、これを放り捨てた。

(朝比奈が、磨いてくれたのか……)

 輝きを増して朝日にキラキラと映える馬蹄型のそれに、否が応でも視線は釘付けになり。

「………………」

 ヴィヴィは静かに、その白い引き出しを閉じた。

 そして手早く朝の準備を済ますと、いつも通りクリスと連れ立って、リンクへと向かったのだった。




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