この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章
歯ブラシに歯磨きペーストを乗せ、口の中に突っ込んだ時、
「おはようございます、お嬢様」
開け放していたバスルームの扉の前、今日も黒いスーツを身に纏った朝比奈が、一部の乱れも無い佇まいで自分を見つめていた。
「もはよう、あはひな」
「おはよう、朝比奈」と伝えたかったらしい主のその可愛い挨拶に、執事は銀縁眼鏡の奥の瞳を細める。
「クリス様を、起こして参ります」
目礼していなくなった朝比奈から鏡に視線を移し、ヴィヴィは3分間、歯を磨き続ける。
鏡の中の自分は、すっきりした顔をしていた。
昨日、兄から今までの経緯の説明を受け。
そして夜、ヴィヴィは自分から懇願して、兄に抱かれた。
優しく、あくまでも優しく。
ヴィヴィは兄にくまなく躰を愛されながら、思っていた。
まるで、初めて抱くみたいに――処女の様に丁寧に抱かれている、と。
(いや……、お兄ちゃんとひとつになってからは、激しかったけど……)
ヴィヴィはその時の事を思い出してぽっと頬を染めると、それを頭から追い出すように口をゆすぎ、顔を洗った。
「……ふぅ……」
タオルで濡れた顔を押さえながら、小さな吐息を零したヴィヴィの視線の先、
作り付けの白い洗面台、数ある引出しのうちの1つが目に留まる。
白い指先に引っ掛け、引き出しを引いたヴィヴィは、そこに在る物に灰色の瞳を向けた。
白い革の長方形の箱、スウェード張りの中に美しく横たえられた金色の鎖。
葉山の別荘から、兄と喧嘩別れして帰ってきた翌朝。
確かにヴィヴィはここに、これを放り捨てた。
(朝比奈が、磨いてくれたのか……)
輝きを増して朝日にキラキラと映える馬蹄型のそれに、否が応でも視線は釘付けになり。
「………………」
ヴィヴィは静かに、その白い引き出しを閉じた。
そして手早く朝の準備を済ますと、いつも通りクリスと連れ立って、リンクへと向かったのだった。