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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章          

「クリス」

 うつ伏せたままのヴィヴィの、その呼び掛けに、

「ん……?」

 そう暖かな声で返してくれる、いつもと変わらないクリス。

「ヴィヴィ、付き合う事になった」

「……そう……」

 隣に寝転んだままのクリスは、そう呟くだけで、身じろぎひとつしなかった。

「うん」

 ヴィヴィのしっかりとしたその声の後、リビングには静寂が下りた。

 11月頭。

 空調が聞いているとはいえ、少しの肌寒さを覚え、ヴィヴィは微かに震える。

 クリスは何も聞かなかった。

 誰と付き合う事になったのか?

 今頃付き合い出すとは、今までは何だったのか?

 これからどうしていくつもりなのか?

 聞きたいのか、聞きたくないのか、あるいはどうでもいいのか。

 それはヴィヴィには、計り知れなかったけれど。

 ただ、報告しなければならないと思った。

 今まで散々、迷惑と苦労と、底知れぬ心労を掛けてきたであろう、双子の兄には。

 そう。

 彼には、聞く権利がある。

「ヴィヴィ……」

 1分くらい経過した頃、クリスにそう呼ばれ、ヴィヴィは俯せていた顔を上げる。

「うん?」

「膝まくら……して?」

 目の上に置いていた腕を退けたクリスは、眠そうな瞳をヴィヴィに向けて甘えてくる。

 ヴィヴィはふわりと微笑むと、起き上がってソファーに座り直した。

「ん……。おいで」

 ぽんぽんとワンピースに包まれた脚の上を叩いて誘うと、クリスはそこに金色の頭を乗せた。

 いつもの様にその柔らかな髪を指先で梳いていると、クリスは「ふわわ……」と小さなあくびをし、

「5分したら、起こして……」

 そう言い置いた数秒後には、す~す~と静かな寝息を立てていた。

 双子の兄の白い寝顔を見つめながら、ヴィヴィもぼ~と弛緩する。

 他にクリスに伝えるべき言葉が、あっただろうか。

 例えば、「ありがとう」や「ごめんなさい」や「許して」等の様な、言葉が。

「………………」

 ヴィヴィは必死に考えてみるが、やはりどれも適切で無く。

 そして双子の兄に他に伝えるべき言葉も、見つからなかった。




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