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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第23章                        

 日光でのアイスショーを終え、双子は帰宅の途に就いた。

 ヴィヴィはシャワーを浴びてさっぱりすると、三日間顔を見れなかった匠海に会いに二人の部屋を繋げる扉をノックする。

けれど匠海からの返事はなかった。

(あれ……? 朝比奈が「匠海様はご在宅ですよ」と言ってたのに……?)

 ヴィヴィは真鍮のノブを回し、扉を開ける。

すると視線の先――革張りのL字型ソファーで、匠海は昼寝をしていた。

時計を見ると、午後二時だった。

大きなガラス窓からはレースのカーテン越しに夏の日差しが降り注いでいる。

(ランチ食べて、眠くなっちゃったのかな……?)

 ヴィヴィは足音を殺して匠海の傍へと寄る。

今でも匠海の傍へと寄るのは鼓動が早くなるが、相手が眠っていると少しは平静でいられる。

 匠海はどうやら読書をしていたようで、長い脚を投げ出し、半袖のⅤネックTシャツの腹筋の上には読みかけの本が置かれていた。

その上に添えられた指の隙間から題名を読み取ると、英語で「Repeatability ― 再現可能な不朽のビジネスモデル」と書かれている。

 ヴィヴィは匠海の腰のあたりにしゃがみ込むと、絨毯敷きの床に膝立ちしてしげしげと匠海の寝顔を覗き込む。

「社長さんになるんだよね……お兄ちゃんは……」

 篠宮は先代――つまりヴィヴィ達の祖父が英国きっての財閥一族から独立し、日本で起業した会社だ。

主幹事業は投資業。

それを父のグレコリーの代でさらに英国を初めとする海外進出を果たした今、世界有数の企業に伸し上がっている――らしい。

 正直、ヴィヴィは実家の家業をよく知らない。

 匠海はその三代目当主となる。

 高校生の頃からヴィヴィには全く分からない経営関連の書籍を読み漁っていた匠海は、大学に進学してからは後継者見習いと学業の二足のわらじで多忙を極めているようだった。

(こんな可愛い寝顔なのに、社長さん……)

 寝顔と企業経営は関係ないと思うが、そんなことをしみじみ思いながらヴィヴィは匠海の寝顔を見つめていた。

数分ほどそうしていたが、匠海に起きる気配はなかった。

(あ……そうだ――!)


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