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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章
目頭が熱くなり、ぐっと目蓋を閉じたヴィヴィを、匠海はその胸に抱き寄せ、
「良い子、良い子」
そう、いつまでも慰めてくれた。
その匠海の抱擁がとても気持ち良くて、声音が心に染み入るように心地良くて、ヴィヴィは甘えてその胸に身を預けていた。が、
「あ……っ!? でも、忙しい時期だったんじゃないの? お仕事……」
兄の胸の中で、ヴィヴィは我に返ってそう声を上げる。
確かあの頃の匠海は、異常に忙しそうだった。
そう、確か四半期決算で多忙で、わざわざヴィヴィに会う為だけに一旦会社から帰宅して、また社へと戻っていたくらい。
「大丈夫。最初から観戦に行くつもりだったから、休日出勤してたんだ」
「……うそ……。ごめんなさいっ」
(ヴィヴィ、そんな事にも気付かないで……、ずっと酷い事、お兄ちゃんに言ってた……)
すぐ上にある匠海の瞳を見つめながら、ヴィヴィはすぐに謝った。
けれど、兄はこつりとヴィヴィのおでこに頭突きすると、にやっと嗤う。
「なんで謝る? だって、俺の愛している女が “俺の演奏” で初めて試合で滑るんだぞ? 行かいでか」
「~~~っ!?」
(お、俺の愛している、お、おおおおお、女……っ)
兄のその直接過ぎる言葉に、ヴィヴィはぼんという効果音がしそうなほど急激に、真っ赤に頬を染めた。
照れまくって兄の胸に顔を埋めたヴィヴィだったが、匠海は見逃してくれず、散々「恥ずかしがって」「可愛いね」とからかってきた。
しばらくそう兄といちゃこらしていたヴィヴィだったが、やがて「はぁ……」と大きな溜め息を付いた。
不思議そうに自分を覗き込んでくる匠海に、ヴィヴィは艶々の唇を尖らせてみせる。
「……やっぱり、お兄ちゃんの演奏、収録したかった……」
「え?」
「今シーズンの、ヴィヴィとクリスのCD……。もう10月に、発売しちゃったけど……」
昨シーズンから、『篠宮 クリス & ヴィクトリア スケーティングミュージック』と名打ったCDを発売しており、好評で今シーズン分も10月に発売していた。
他にもフォトブックや書籍、バナーや縫いぐるみをはじめとする、グッズも展開し。
その印税や売上は、双子の活動費に充てられている。
(ありがたや、ありがたや……(-人-))