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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章          

「それに、俺の演奏を? 嫌に決まってるだろう」

 苦虫を噛み潰したかの様な険しい表情を浮かべた兄に、ヴィヴィは残念そうに眉尻を下げる。

「え~~……。ヴィヴィは “お兄ちゃんの演奏” が好きなんだもん」

「お前のSPの音源が俺のって知られたら、俺、どんだけ “シスコン” って周りから言われると思う?」

 兄のその突っ込みに、ヴィヴィは負けじと食い下がる。

「……偽名でも、よかったもん……。ん~と、篠宮 匠海だから、TSとか? 匠とか?」

(TSネットワークとか? T……はちょっと、韓流スターみたい……)

 CDに載せる際の演奏者の名前を口にした妹に、匠海は「はっ」と鼻で笑い飛ばした。

「下らない」

「ちぇ~……」

 兄に一蹴されたヴィヴィは、そうガキっぽく呟くと、長い睫毛を湛えた目蓋を伏せた。

(まあ、もう発売しちゃったんだけどね……。でも、お兄ちゃんの演奏だったら、購入してくれた人もより喜んでくれただろうな……)

 ヴィヴィが拗ねたとでも思ったのだろうか。

 匠海は妹の顎に指を添え上を向かせると、柔らかくその唇を吸った。

 驚いてぱちりと目蓋を上げたヴィヴィだったが、自分もそれに応え、ちゅうと匠海の形のいい唇を啄んだ。

 兄には1/4しか英国の白人の血が入っていない筈なのに、その肌は白く、唇の色も肌色に近く色素が薄い。

 それに触れて、舐めて、味と感触を確かめられるのは、今は自分だけ。

 胸を焦がすそのあまりの幸せに、ヴィヴィはただ無心に兄の唇を受け止め、滑らかな舌を受け入れた。

 互いの粘膜を愛し合い、体液を交換し合う。

 その甘美な交わりに、また数分前と同じく骨抜きにされたヴィヴィは、唇が離されても潤んだ瞳で兄を見つめ続けていた。

「お前の為になら、弾いてあげるから」

 耳に唇を寄せて吹き込まれた、その言葉。

「…………はぅ?」

 兄の巧みな口付けに翻弄されまくったヴィヴィが、匠海の暖かな吐息ひとつにも反応して、ぴくっと細い肩を上げる。

 そんなヴィヴィの上に覆い被さった匠海は、妹の顔の傍に両肘を付き、「ピアノ」と囁く。

「ヴィクトリアが聴きたい時、いつでも弾いてあげるから。それで勘弁して?」

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