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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章
(……おにいちゃん……、か、かっこいい……っ!!!)
ヴィヴィがそう胸の中で身悶えたのも、無理もない。
黒い前髪が滑らかな額にさらりと零れ落ちるさまは、まるで黒鳥が羽を拡げたかの様に美麗で。
その下の彫りの深い灰色の瞳は、煙水晶の如き独特の輝きで。
2人分の体液に濡れた形の良い唇は、瑞々しい果実の様に鮮烈で。
「……~~っ うんっ」
目と鼻の先で見下ろしてくる匠海にメロメロになったヴィヴィは、蕩けそうに弛緩した表情で微笑んだ。
「ああ、いい顔だ」
そう囁く兄の方が、本人に鏡を突き付けてあげたいくらい、素敵な表情を浮かべていた。
ほうと胸が温かく感じ、ヴィヴィはシーツの上の両腕をゆっくりと持ち上げ、薄いその上に掌を重ねる。
胸の奥に灯る、小さな炎。
それはとても暖かくて、
その儚くも強い揺らぎを感じるだけで、心が解れ、
無駄なりきみや気負いを、すっとその身から取り除き、解放してくれる。
いつまでも途切れないで、命のともしびが消えるまで、ずっとそこに在って欲しい、大事なもの。
けれど、本当にそれが永遠かだなんて、誰にも解り得る筈も、知り得る筈も無く。
唯一それを知り得るのは、居るかどうかも判らない、神、くらいであろうか――。
「……おにい、ちゃん……」
幸せなのに心許無い。
不均衡な心の内を表すかの様に、兄を呼ぶ声は掠れていた。
「ん?」
相槌と共に微笑んで見下ろしてくる匠海に、ヴィヴィは必死でその瞳に縋る。
「お兄ちゃんは、ヴィヴィの……、だよ、ね……?」
「そうだよ」
妹のそのいきなりの確認にも、少しも動じずに即答した匠海に、ヴィヴィは余計に不安を募らせる。
否――反対に言い淀まれても、不安が増しただろうが。
「お兄ちゃんのピアノも……っ お兄ちゃんの手も、胸も、全部、ヴィヴィのだよねっ!?」
眉間を寄せて苦しそうに見上げてくる妹に、匠海はゆっくりと確実に頷いてみせる。
「そうだよ。それに、俺の “心” もね」
兄のその返事に、ヴィヴィの胸の炎は高純度の酸素を吹き込まれたかの如く、一瞬ぶわりと大きく燃え上がった。