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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第101章          

「今から聞く事……、怒らないって、約束してくれる……?」

 頬に添えられたままの兄の大きな掌の上から自分の細いそれを重ね、そう確認するが、匠海の返事は、

「……内容によるな」

「…………じゃ、いい」

 そうぼそりと呟いて兄の胸に顔を隠すように埋めたヴィヴィに、匠海はふっと笑うとその頭を撫でた。

「冗談だよ。何でも聞いてくれ。絶対に怒ったりしないから」

「ほんと……?」

 少しだけ兄の胸から顔を離したヴィヴィに、匠海は笑みを深くする。

「本当」

「………………」

 兄も怒らないと約束してくれたし、いざ確かめようと唇を開いたヴィヴィだったが、やはり怖くて言い淀み。

「ほら、ヴィクトリアのこの小さな頭の中で気になってる事、聞かせて?」

 根気強くそう促してくれる匠海に、ヴィヴィはしばらく灰色の瞳を戸惑ったように揺らせていたが、

「…………朝、帰り……」

 そうぼそりと呟くと、兄の反応を確かめるようにじいと下からその表情を見上げた。

 けれど、

「朝帰り? が、どうした?」

 心底不思議そうにそう尋ねてくる匠海に、ヴィヴィは困った様に眉根を寄せる。

「こ、今年の、年始……。じょ、女性の香水……っ」

 年初めの1月2日。

 留学先から帰国していた兄は、その日の早朝、くたびれた顔つきで朝帰りをした。

 リンクへと向かうヴィヴィが、玄関ホールで兄とすれ違った時に感じた、嗅ぎ慣れない女物の香水の香り。

(あれは、一体、何だったの……?)

「え? 年始?」

 また尋ね返してくる兄に、ヴィヴィは更に眉を顰めて言及する。

「……い、1月2日……」

 その日付を聞いても思い当たらないのか、匠海は斜め上を睨む様に首を傾げる。

「ごめん。思い出せないから、スケジュール見てもいいか?」

「う、うん……」

 兄の確認にどもりながらそう頷いたヴィヴィに、匠海はスーツの内ポケットからスマホを取り出し、それを妹の目の前で操作しだした。

「……あ、暗証番号、見えちゃったよ……?」

 見る気はなかったがいきなり真ん前で打ち込まれて目に入ってしまい、ヴィヴィはそう指摘した。

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