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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第23章
ヴィヴィは名案を思い付き、半袖のパイル地パーカーのポケットをごそごそと探る。
そこから取り出したのは、日光土産と書かれた何の変哲もないお土産屋さんの小さな紙袋。
ヴィヴィはその中から石ころ状の物を三つ取り出すと、匠海の顔の傍にちょこんと並べた。
(早く起きないかな~お兄ちゃん)
ヴィヴィはにんまりしながら匠海の寝ているソファーに両肘を付き、穏やかなこの時間を楽しむように微笑んだ。
三十分後。
一時間の昼寝を終えた匠海は、静かに目を覚ました。
今日の明け方まで社長室で過去の業績を確認していたため、さすがに眠気をもよおしたのだ。
上半身を起こすと、腹の上に置いていた本がポスという軽い音を立ててソファーのクッション部分に落ちた。
それに視線をやると、すぐ傍に金色の髪が目に入る。
匠海は一瞬びくりと体を震わせたが、すぐに相手が自分の妹――ヴィクトリアだと分かり、ほっと息を吐く。
ヴィヴィはすうすうと寝息を立てて、自分の両手を枕にして寝ていた。
今日の昼にはアイスショーから帰宅すると聞いていたので、自分に会いに来たのだろうと思う。
指先で妹の抜けるように白い頬を突いてみるが、起きる気配はない。
匠海は苦笑すると、小さな声で囁いた。
「おかえり、ヴィヴィ。お疲れ様――」
ヴィヴィの顔にかかった幾本かの金色の髪を指先で払いながら、匠海はその髪を優しく梳いた。
洗い立てなのか梳くたびに良い香りが広がる。
一年ほど前、ヴィヴィが無邪気に「シャンプー変えたの。好き?」と尋ねてきた時と同じ香りだ。
さらさらなのにしっとりとした極上の手触りの髪を、匠海はいつの間にか無心になって触れていた。
その時、
「お、兄ちゃん……」
ヴィヴィの桃色の唇が微かに動き、小さな声が漏れる。
「ヴィヴィ……?」
起きたのかと思い、匠海はその顔を覗き込んだが長い睫毛に縁どられた瞼は閉じられたままで、また規則正しい寝息が聞こえ始める。
「…………」
「寝言か……」
匠海はそう結論付けると、またヴィヴィの小さな頭を撫で続ける。
時折指を入れてゆっくり梳いてやると、ヴィヴィの頬が緩み気持ちよさそうな表情をする。
「……ん…………おさる……さん……」