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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章            

 あれから3週間。

 兄は毎夜、ヴィヴィに添い寝をしながら愛を囁き、週に1度、身も心も愛し充たしてくれている。

 今の匠海は以前と同じく優しく、今まで見せた事の無い甘さでもってヴィヴィを誘惑し、けれどやっぱり意地悪で妹を翻弄する事も忘れない。

 自分に対する兄の言動は一貫しており、揺るぎ無く、裏も垣間見えない。

 そう、たぶん、自分は兄に心から愛されている。

(うん……、たぶん、きっと……、恐らく……は)

 引き出しからテスト冊子を取り出したヴィヴィは、机の上にそれを広げ、手の付け根で折り目を伸ばす。

 書かれている制限時間をスマホで計ろうとしたその手を、横から握られた。
 
 紺色のニットから延びる大きなその手の持ち主は、ヴィヴィを真っ直ぐ見つめて忠告してくる。

「バランス、大切にしてね……」

「え……?」

 ヴィヴィは灰色の瞳を不思議そうに瞬かせ、隣のクリスに向ける。

(バランス……? 何の……?)

 そう疑問に思うヴィヴィから手を離したクリスは、その手をテスト冊子の上に下ろす。

「世界史には、一定の時間しか費やさない……、そう決めて、他の教科に時間を回す勇気も、必要だよ……」

「あ……、うん。気を付ける」

 クリスの言う通り、予備校の担任にも同じ事を口酸っぱく言われていた。

 素直に頷いたヴィヴィに、クリスはイヤホンを耳にさし、視線を自分のPCへと戻した。

「クリス」

「ん……?」

 ヴィヴィの呼び掛けに、もう講義を再生しているのか、クリスは視線を寄越さずに小さく相槌を返してくる。

「ありがとう」

 そのお礼の言葉に、クリスは反応しなかった。

 ヴィヴィは双子の兄からテストへと視線を戻し、スマホのタイマーを起動させようとした時、

「……どういたしまして」

 小さな声で返されたクリスの囁きに、ヴィヴィははっと手を止め。

 しかしそれも数秒後には、何事も無かった様にタイマーを起動し、冊子にペンを走らせたのだった。




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