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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章            

 その日の深夜。

 ヴィヴィの寝室には、チュ、チュと可愛らしいリップ音が響いていた。

 白いキングサイズのベッドの上、ベッドヘッドに上半身を預けているのは、白のヘンリーネックのロンTとオーバーチェック柄のパンツを纏った匠海。

 その腰の上に跨っている(正確に言うと跨らされた)のは、ピンクフリルが袖と裾に縫い付けられた、幼さ倍増のネグリジェを纏ったヴィヴィ。

 その踝丈の裾は肌蹴け、細い両脚を剥き出しにし、脚の付け根でくしゃくしゃになっていた。

 そんなはしたない恰好のまま、ヴィヴィは両腕を匠海の首の後ろで交差し、無心で兄の唇に自分のそれを重ねる。

「本当に、タラコになっちゃうぞ?」

 兄のからかいの言葉に、ヴィヴィは真っ赤な頬のままこくりと頷く。

「いいの……」

「タラコ唇が?」

 面白そうに覗き込んでくる灰色の瞳に、ヴィヴィは長い睫毛を湛えた目蓋を伏せる。

「ん……、ヴィヴィ、唇薄いの、嫌い……」

「どうして?」

 自分の容姿を嫌いというヴィヴィに、匠海は少し驚いたように瞳を瞬かす。

「なんか、貧相で……、色気無いし……」

 ちなみに、唇が薄い = 冷たそう と見られる事が多い。

 なので、妹そっくりの容姿で無表情のクリスは、そう見られがちだ。

 幸か不幸か、ヴィヴィは生まれてこの方、そう見られた事がない。

 きっと、いつもへらへら笑っているか、拗ねて唇を尖らせている事が多いからだろう。

「とても可愛いよ?」

「……お兄ちゃんみたいに、肉感的な方が、色っぽいもん……」

 匠海の唇はとても綺麗。

 平均より少し肉厚で、大きめで、色素が薄くて。

 触れると張りがあって、けれど柔らかくて……、病み付きになって離れられない。

「それはそれは。ヴィクトリア姫にお褒めに預かり、至極光栄」

 そうおどけた匠海に、ヴィヴィは「あははっ」と明るい声で笑った。

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