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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章            

「……え……?」

「お前が俺のこと、 “お兄ちゃん” って呼んでくれる、本当の理由」

「……――っ」

(お兄ちゃん、知ってたの……?)

 ヴィヴィの心の声が聞こえたかの様に、匠海はゆっくりと首を横に振る。

「あの時は……、知らなかったけれど……」

 匠海のその言葉に柔らかな光を灯していたヴィヴィの瞳が、険しくなる。

 その細い両腕が、無意識に胃の辺りをネグリジェの上から覆っていた。 

 今年の3月。
 
 英国での世界選手権――最終日のホテルで交わされた、兄妹の会話。

 ヴィヴィの身も心も粉々にしたあの会話の中、匠海は口にしていた。



『ヴィクトリアだって、そうなんだろう?

 だってお前、俺に抱かれてる時でさえ

「お兄ちゃん」って呼ぶしな』



 匠海はヴィヴィの腹に這わされているその細い両手に、自分のそれを重ねる。

「あの時、お前が何か言いたげだったから……。気になって後で、サラに確かめたんだ」

「……え……? サラ、に……?」

 まさかここで、母方の同年の従姉妹の名が出てくるとは思わなかったヴィヴィが、険しくなっていた瞳を丸くして兄を見返す。

「うん。ヴィクトリアの幼少の頃を、よく知るのは、あの子かと思ってね」

 確かに匠海の言う通り、幼少の頃、ちっちゃなヴィヴィとサラは、その事について語り合った事があった。



『前から気になってたんだけどね?

 ヴィヴィはどうして、匠海のことを

 日本語の「お兄ちゃん」って呼ぶのぉ?』

『だってね? お兄ちゃんのことを「お兄ちゃん」って呼べるのは、

 弟妹のクリスとヴィヴィしかいないでしょう? 

 それにクリスは「兄さん」って呼ぶし……。

 みんなは匠海って呼べるけれど、

「お兄ちゃん」はヴィヴィだけのもの。だから特別なのっ!』



 そう。

 ヴィヴィにとって「お兄ちゃん」という呼び方は、とても大切なものだった。

 例えそれが、禁忌を呼び込むものであったとしても――。

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