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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章            

「……名前……で、呼んだほうが、いい?」

 目の前の兄にそう小さな声で確認するヴィヴィに、匠海はふっと笑みを零し、微かに首を振る。

「いいや。今のままで……。それに俺は、 “妹” であるお前も、愛しているのだからね」

「うん……。ヴィヴィも、 “兄” であるお兄ちゃんも、愛してる」

 匠海を1人の男として愛している――それは、紛れもない事実。

 けれど、この17年という人生の大部分を共に過ごして来たのは、 “兄” である匠海で、ヴィヴィはそんな匠海を愛してしまった。

 だから、どちらも大切で、どちらも愛しているのだ。

 どちらもが匠海自身であるのだから――。

 ヴィヴィのしっかりした返事に、匠海はその細い両掌を手に取り腹部から解くと、ゆっくりと自身の両頬に沿えた。

 両掌の外側と内側から伝わってくる匠海の暖かさに、ヴィヴィはほっと瞳を細めた。

「ありがとう。俺の馬鹿な行いを、許してくれて……」

 そう謝罪を口にした匠海に、ヴィヴィはゆるゆると首を振る。

(こんなにも慈悲深いお兄ちゃんに、あんな事を口にさせてしまったのは、ヴィヴィのせい……)

 だからもう、苦しまないで欲しい。

 自分はちゃんと理解し、受け止め、納得済みだ。

 ただ、まだ思い出すと、胃がしくしくと痛むだけで。

「…………、お兄、ちゃん……?」

「なんだい?」

 自分の呼び掛けに優しい瞳を向けてくれる匠海に、ヴィヴィはいつの間にか白くなっていた頬を微かに染め。

「……明日……」

 そう小さな声で発した後、恥ずかしそうに兄の耳に唇を寄せ、囁く。

「2人でいっぱい、気持ち良く、なろうね……?」

 2人で心の内を見せ合って、語り合って、躰を繋げて、互いを分け与えながら。

 徐々に理解を深めていければいい。

 時間はこれから――そう、死ぬ程有るのだから。

(そうでしょう? お兄ちゃん……)

 耳から唇を離して兄を覗き込めば、そこにあったのは、2人分の掌に包まれた、大の大人の泣き出しそうな貌。

「……っ ああ、なんて可愛くて……っ 優しい子なのだろうね」

 兄の美しい顔が醜く歪むさまが耐えられないとでもいうように、ヴィヴィはその顔に薄い唇を寄せ、幾つもの小さな口付けを落とし。

 そして、やっと表情を改めた匠海の唇に、自分のそれを優しく押し付けた。

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