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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章
先日、兄のピアノ演奏を双子のCDに収録したかったと言ったヴィヴィに、
『ヴィクトリアが聴きたい時、
いつでも弾いてあげるから。
それで勘弁して?』
そう匠海は言ってくれた。
「いいよ。先に防音室に行っていてくれるか?」
大きな掌で頭を撫でてながら了承してくれた兄に、ヴィヴィはほっとした表情を浮かべた。
「うん。じゃあ、暖房付けておくね」
1階の奥にある防音室に向かったヴィヴィは、照明と暖房を点け。
据え置かれた漆黒のグランドピアノに近づき、大屋根を持ち上げて突上棒で固定すると、鍵盤を覆う蓋とフェルトを取り払い、兄が直ぐに弾けるように準備を整える。
踝丈のナイトウェアに包まれたの身体を、ソファーの上で折り畳んで座って待っていると、匠海が現れた。
「お待たせ。ヴィクトリアに、見せたい物があったんだ」
「なあに?」
そう言ってiPadを差し出してきた兄から受け取り、視線を落としたヴィヴィはぱちぱちと大きな瞳を瞬かせ、微かに首を捻る。
「これ……。本当は画集を用意したかったんだけど、海外の物で間に合わなくてな」
「……これは……?」
iPadに表示されていたのは、1枚の油絵だった。
「アルベール=ベナールっていう、19世紀のフランスの画家の絵だよ。タイトルは『幸福の島』」
そう答えながら妹の金色の頭を撫でる匠海に、ヴィヴィが絵画から視線を上げる。
「あ、もしかして……。これもドビュッシーの、『喜びの島』の?」
「そう。ヴァトーの絵画は、見た?」
「うん。ヴィヴィ、画集買ったの」
ジャン=アントワーヌ・ヴァトー、フランスの画家が描いた『シテール島への巡礼』は、ドビュッシー作曲『喜びの島』を描いたと言われている。
「実は、ヴァトーの絵画に霊感を得てドビュッシーが作曲したという説は、必ずしも定説ではないらいしいんだ。この曲の持つ世界観は、1902年にベナールが発表した、この『幸福の島』の方にむしろ近いという説もある」
「へえ……」